・・・ ナ、何を馬鹿な、俺は仮にも職長だ、会社の信任を負い、また一面、奴らの信頼を荷のうて、数百の頭に立っているのだ……あンな恩知らずの、義理知らずの、奴らに恐れて、家をたたんで逃げ出すなンて、そんな侮辱された話があるものか。「うるさいッ・・・ 徳永直 「眼」
・・・お前のような恩知らずは早く粘土になっちまえ。」「おや、呪いをかけたね。僕も引っ込んじゃいないよ。さあ、お前のような、」「一寸お待ちなさい。あなた方は一体何をさっきから喧嘩してるんですか。」新らしい二人の声が一緒にはっきり聞え・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・お前もあんまり恩知らずだ。犬猫にさえ劣ったやつだ。」校長はぷんぷん怒り、顔をまっ赤にしてしまい証書をポケットに手早くしまい、大股に小屋を出て行った。「どうせ犬猫なんかには、はじめから劣っていますよう。わあ」豚はあんまり口惜しさや、悲しさ・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・家中一同は彼らを死ぬべきときに死なぬものとし、恩知らずとし、卑怯者としてともに歯せぬであろう。それだけならば、彼らもあるいは忍んで命を光尚に捧げるときの来るのを待つかも知れない。しかしその恩知らず、その卑怯者をそれと知らずに、先代の主人が使・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫