・・・二人の土工はその店へはいると、乳呑児をおぶった上さんを相手に、悠悠と茶などを飲み始めた。良平は独りいらいらしながら、トロッコのまわりをまわって見た。トロッコには頑丈な車台の板に、跳ねかえった泥が乾いていた。 少時の後茶店を出て来しなに、・・・ 芥川竜之介 「トロッコ」
・・・と気がるに蘊藻浜敵前渡河の決死隊に加わって、敵弾の雨に濡れた顔もせず、悠悠とクリークの中を漕ぎ兵を渡して戦死したのかと、佐伯はせつなく、自分の懶惰がもはや許せぬという想いがぴしゃっと来た。ひっそりとした暮色がいつもの道に漂うていた。「つまり・・・ 織田作之助 「道」
・・・ 悠悠たる塵中の人、 常に塵中の趣を楽む。 云々。「悠悠たる」は嘘だと思うが、「塵中の人」は考えさせられた。 玉勝間にもこれあり。「世々の物知り人、また今の世に学問する人なども、みな住みかは里遠く静かなる山林を・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫