・・・露骨に云えばあの男と楢山夫人との間にも、情交のある事を発見したのだ。どうして発見したかと云うような事は、君も格別聞きたくはなかろうし、僕も今更話したいとは思わない。が、とにかくある極めて偶然な機会から、僕自身彼等の密会する所を見たと云う事だ・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・お通と渠が従兄なる謙三郎との間に処して、巧みにその情交を暖めたりき。他なし、お通がこの家の愛娘として、室を隔てながら家を整したりし頃、いまだ近藤に嫁がざりし以前には、謙三郎の用ありて、お通に見えんと欲することあるごとに、今しも渠がなしたるご・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・そうしてむしろかえってさんざん道楽をし尽くしたような中年以上のパトロンと辛酸をなめ尽くして来た芸妓との間の淡くして深い情交などにしばしば最も代表的なノルマールな形で実現されたもののようである。 江戸の言葉で粋と言ったのは現代語をもってし・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・太十とお石との情交は移らなかった。お石は顔に小さい皺が見えて来てもう遠から白粉は塗られなかった。盲目の衰え易い盛りの時期は過ぎ去って居るのである。其でも太十の情は依然として深かった。四 彼がお石を知ってから十九年目、太十が六・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・蓋し男女交際法の尚お未熟なる時代には、両性の間、単に肉交あるを知て情交あるを知らず、例えば今の浮世男子が芸妓などを弄ぶが如き、自から男女の交際とは言いながら、其調子の極めて卑陋にして醜猥無礼なるは、気品高き情交の区域を去ること遠し。仮令い直・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・には、男女両性の間は肉交のみにあらず、別に情交の大切なるものあれば、両性の交際自由自在なるべき道理を陳べたるに、世上に反対論も少なくして鄙見の行われたるは、記者の喜ぶ所なれども、右の「婦人論」なり、また「交際論」なり、いずれも婦人の方を本に・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫