・・・それは情意と、実践との世界に関連しているのである。特に東洋においては、それはむしろ実践のためにあるものなのであった。 しかしながら前にも述べた如く、良書とは自分の抱く生の問いにこたえ得る書物のみではなく、生の問いそのものをも提起してくれ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ゆえに富貴は貧賤の情実を知り、貧賤は富貴の挙動を目撃し、上下混同、情意相通じ、文化を下流の人に及ぼすべし。その得、四なり。一、文学はその興廃を国政とともにすべきものにあらず。百年以来、仏蘭西にて騒乱しきりに起り、政治しばしば革るといえど・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・畢竟親の方にては格別深き考えもあらず、ただ一時の情意に発したるものなるべし。その第一例なる衣裳を汚したる方は、何ほどか母に面倒を掛けあるいは損害を蒙らしむることあれば、憤怒の情に堪えかねて前後の考えもなく覚えず知らず叱り附くることならん。ま・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・彼等は、自分等がそれによって相争うことの善悪も、必要・不必要も念頭にない一個の情意となってそのうちに没頭したのである。 けれども、人類の認識の範囲が拡大し、個人の意識が人生に向ってより多様複雑な綜合的人格として働きかけるようになって来る・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
出典:青空文庫