・・・「今日においては『私』を決定する想念は個人主義的要素をいささかも含んでいないということが一つの特質として認められねばならぬ。」「作者の生活態度、人生観が作中の『私』に変貌しているかどうかということなぞということは結局どうでもいいことなのであ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・この愛についても例外的な境地に生きる女詩人が、今既にある峯に立っているその境地のなかで、そのような想念と情緒とをどのように展開し、すこやかに渾然と成熟させてゆくか。愛という字をつかわずに、人々の心に愛の火を点じてゆく芸術の奥義が、どんなにし・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・あくまで個人の性格や事情と公的なものと観念化されていた一つの想念とを対立させて、そこで敗れた人間性や良心の課題の範囲で扱われたことも、日本の知識人の歴史の性格を雄弁に語っていることであった。しかも、当時一般の心理は、このような歴史的文学の題・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・極度の静謐、すっかり境界がぼやけ、あらゆる固執を失った心と対象との間に、自ら湧き起る感興、想念と云うもので先ずその第一歩を踏み出すのが創作の最も自然な心の態度らしく感ぜられ始めたのである。何たる沈黙、沈黙を聞取ろうと耳傾ける沈黙――人が、己・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・ 何かの婦人雑誌に彼が最近かいたものの中で、文学を日夜想念する作家として誰彼のことを云っていたが、文学の想念ということは、窮局には、たゆまず自分を破いて行こうとする情熱、それを表現し文学化してゆく文学上の諸要件での一致点の発見のことでは・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・これらの選択や利用が、すべて画家のある想念に――主としていわゆる詩的な美しい場面を根拠とするある幻想に――支配せられていることは、何人も否み得ないであろう。日本画のこのような特質に注意を集めて、それを「浪漫的」と呼んでも、必ずしも不都合はな・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫