・・・この意味で、会話は、彼の意図通り、方向を転換したと云っても差支えない。が、転換した方向が、果して内蔵助にとって、愉快なものだったかどうかは、自らまた別な問題である。 彼の述懐を聞くと、まず早水藤左衛門は、両手にこしらえていた拳骨を、二三・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・ しかるに、今日は、『大衆に向くものを』という意図のもとに文芸が創作されつゝあります。 いったい誰に、それが売れないのであるか? 或は、そういう作品は、誰に読まれないというのか? 過去のいかなる時代に於ても、真の芸術は理解する人・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・娘を二人まで助手に雇って、書いたものだけに、実に念入りに大阪弁の特徴を生かそうとしているし、ことに大阪の女の言葉の音楽的なリズムの美しさはかなり生かされていて、この作品を全部大阪弁で書こうとした作者の意図は成功している。しかしこの小説の大阪・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・しかし、すくなくと反俗であり、そして、よしんば邪道とはいえ、新しい小説のスタイルを作りあげようという僕の意図は、うぬぼれでなしに、読みとれる筈だ。しかし、僕はこのようなスタイルが黙殺されたことを、悲しまない。僕はさらに新しいスタイルをつくる・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・重圧する畏怖の下に、黙々と憐れな人間の意図を衛っている。 一番はしの家はよそから流れて来た浄瑠璃語りの家である。宵のうちはその障子に人影が写り「デデンデン」という三味線の撥音と下手な嗚咽の歌が聞こえて来る。 その次は「角屋」の婆さん・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・喜劇を書いても、諷刺文学を書いても、それで、人をおかしがらせたり、面白がらせたりする意図で書くのでは、下らない。悲劇になる、痛切な、身を以て苦るしんだ、そのことを喜劇として表現し、諷刺文学として表現して、始めて、価値がある。殊に、モリエール・・・ 黒島伝治 「愛読した本と作家から」
・・・戦争反対の文学は、かなり昔から存在して居るが、ブルジョアジーの戦争反対文学と、現代プロレタリアートの戦争反対文学とは、原則的に異ったものを持っている。戦争反対の意図を以て書かれたものは、古代ヘブライの予言者マイカのものゝ中にもある。民族間の・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・悪性の料簡だ、劣等の心得だ、そして暗愚の意図というものだ。しかるに骨董いじりをすると、骨董には必ずどれほどかの価があり金銭観念が伴うので、知らず識らずに賤しくなかった人も掘出し気になる気味のあるものである。これは骨董のイヤな箇条の一つになる・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ 僕は彼の雄弁のかげに、なにかまたてれかくしの意図を嗅いだ。果して、勝手口から、あの少女でもない、色のあさぐろい、日本髪を結った痩せがたの見知らぬ女のひとがこちらをこっそり覗いているのを、ちらと見てしまった。「それでは、まあ、その傑・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・はじめに意図して置いたところだけは、それでも、言って知らせてあげよう。私は、日本の或る老大家の文体をそっくりそのまま借りて来て、私、太宰治を語らせてやろうと企てた。自己喪失症とやらの私には、他人の口を借りなければ、われに就いて、一言一句も語・・・ 太宰治 「狂言の神」
出典:青空文庫