・・・肉食でなければ営養が取れないナゾというのは愚論だよ。」 が、鴎外は非麦飯主義で、消化がイイという事は衛養分が少ないという事だという理由から固く米飯説を主張し、米の営養は肉以上だといっていた。 或る時、その頃私は痩せていたので、ドウし・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・と朝田、「朝田の愚論は僕も少々聞き飽きた」と神崎の一言に朝田は「フフン」と笑ったばかり。これだから二人が喧嘩を為ないで一ヶ月以上も旅行が出来たのだと大友は思った。 三人とも愉快に談じ酒も相当に利いて十一時に及ぶと、朝田、神崎は自室に・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・その愚なものに好と思われる論は愚論サ。僕の論は平常の人にはきっと悪くいわれるよ。ダカラ愚論でないのサ。愚論でないから分らないのサ。人間に分るような浅薄の議論は仕方がないのサ。人間に分らないくらい高尚幽玄の論だから気を静めて聞玉えよ。よしカネ・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ 私は焼け出されて津軽の生家の居候になり、鬱々として楽しまず、ひょっこり訪ねて来た小学時代の同級生でいまはこの町の名誉職の人に向って、そのような八つ当りの愚論を吐いた。名誉職は笑って、「いや、ごもっとも。しかし、それは、逆じゃありま・・・ 太宰治 「嘘」
・・・見のように鹿爪らしく述べていたり、また、私が小説を読んで感じた事をあなたに、ちょっと申し上げると、あなたはその翌日、すましてお客様に、モオパスサンだって、やはり信仰には、おびえていたんだね、なんて私の愚論をそのままお聞かせしているものですか・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・実に取処もなき愚論にして、痴人夢を語るとは此事ならん。抑も陰陽とは何物なるや何事なるや。漢学流の言に従えば、南が陽なれば北を陰と言い、冬が陰なれば春を陽と言い、天は陽、地は陰、日は陽、月は陰など言うが如く、往古蒙昧の世に無智無学の蛮民等が、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・朗読がすすむにつれ暗闇の中で、「愚論!」と吼える者がある。「本読みは退屈な程長くつづく。」ゴーリキイは聴き草臥れる。それにもかかわらず、彼にはその挑戦的な鋭い言葉が気に入った。それらの云われていることは「容易に簡単に、説得的な思想に・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫