・・・に現われる器械などは幼稚で愚鈍で、無意味というよりは不愉快である。これに反して平凡な工場のリアルな器械の映画には実物を見るとはまたちがった深い味がある。見なれた平凡な器械でも適当に映出されるとそれが別な存在として現われ、実物では見のがしてい・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・植物が見ても人間ほど愚鈍なものはないと思われるであろう。 秋になると上野に絵の展覧会が始まる。日本画の部にはいつでも、きまって、いろいろの植物を主題にした大作が多数に出陳される。ところが描かれている植物の種類がたいていきまり切っていて、・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・植物が見ても人間ほど愚鈍なものはないと思われるであろう。 秋になると上野に絵の展覧会が始まる。日本画の部にはいつでも、きまって、色々の植物を主題にした大作が多数に出陳される。ところが描かれている植物の種類が大抵きまり切っていて、誰も描か・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・雪の日のミルクホールで弁護士から今日の判廷の様子を聞かされ、この二十四時間に捜しあてなければ愚鈍なる陪審官達はいよいよ有罪の判断を下すであろうという心細い宣告を下されるのである。天一坊の大岡越前守を想い出させる。 さすがそこは芝居である・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・相当大きくなっていながら通りがかりの人に捕えられるくらいであるから鷹揚というよりはむしろ愚鈍であるかと思われた。しかしまた今までうちにいたどの猫にもできなかった自分で襖を明けて出はいりするという術を心得ていた。しっぽを支柱にしてあと足で長く・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・その上祐天がちっとも愚鈍らしくない。いやに色気があって、そうして黄色い声を出す。のみならずむやみに泣いて愚痴ばかり並べている。あの山を上るところなどは一起一仆ことごとく誇張と虚偽である。鬘の上から水などを何杯浴びたって、ちっとも同情は起らな・・・ 夏目漱石 「明治座の所感を虚子君に問れて」
・・・紊乱して家を成さず、幸に其主人が之を弥縫して大破裂に及ばざることあるも、主人早世などの大不幸に遭うときは、子女の不取締、財産の不始末、一朝にして大家の滅亡を告ぐるの例あるに反し、賢婦人が能く内を治めて愚鈍なる主人も之に依頼し、所謂内助の力を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・かえりみて我が身の出処たる古学社会を見れば、その愚鈍暗黒なる、ともに語るに足るべき者なく、ひそかにこれを目下に見下して愍笑するのみ。その状、あたかも田舎漢が都会の住居に慣れて、故郷の事物を笑うものに異ならず。ますます洋学に固着してますます心・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・最も愚鈍なるもの最も賢きものなり、という白い杭が立っている。これより赤道に至る八千六百ベスターというような標もあちこちにある。だから僕たちはその辺でまあ五六日はやすむねえ、そしてまったくあの辺は面白いんだよ。白熊は居るしね、テッデーベーヤさ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・政治ときくと、ただちに命令・統制・拘束を思って、手足をこわばらせ息をつめ、鞭を見た奴隷のように理解力を失い愚鈍に陥ってしまう。その同じ人々が、三十五倍の都民税をはらう義務は遂行し、所得を実質的には1/3にしてしまう所得税をはらい、言論抑圧に・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫