・・・学校から帰るとすぐに先生の宅へ駆けつける、老人と孫娘の愛子はいつも気嫌よく僕を迎えてくれる。そして外から見るとは大違い、先生の家は陰気どころかはなはだ快活で、下男の太助はよく滑稽を言うおもしろい男、愛子は小学校にも行かぬせいかして少しも人ず・・・ 国木田独歩 「初恋」
・・・、みずから恐ろしき猛獣を養い、これに日々わずかの残飯を与えているという理由だけにて、まったくこの猛獣に心をゆるし、エスやエスやなど、気楽に呼んで、さながら家族の一員のごとく身辺に近づかしめ、三歳のわが愛子をして、その猛獣の耳をぐいと引っぱら・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・ 指で示すのを見ると、やはり同じ投書欄で、愛子という人の投書に、何事も〔三字伏字〕のお為だ云々というところの三字がある。「…………」「いいですか? 一ヵ所じゃないですよ。こっちにもある。……こオっと……これ、これはどう云うんです・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・そして、子の母となりながら、妻の永い病に精根つき果てたような良人へ気をかねて、その愛子をのこして家を去る決心にまで追いこまれなければならなかったということも、男の一生にはない女のあわれさであると思う。 ロマン・ローランは、人間の社会にの・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・ 父親の波多江さんが、愛子を解剖に付したことはこの際極めて有意義であったと思う。金一君の死が世人に与えた教訓は、その解剖の結果親の心得べき科学の知識で裏づけられた。 どちらかと云えば例外なこの事件だけれども、世の父母たちは多くのこと・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・私のように、中国文化について知らない者でさえも、謝冰心女士の名は聞いて久しいし、郭沫若と云えば、彼が日本の家の内に愛妻と愛子たちとをのこし故国へ向って脱出した朝の物語までを、心に銘して知っている。 だが、中国の社会の歴史は、近代企業とし・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 女主人公アサとの対照として作者は用意ふかく愛子、シゲという二つのタイプを描き出し、結婚に対する態度、工場の高度の技術化のためにおこる解版女工の失業についての身のふりかたにコントラストを示している。どうせ共稼ぎの結婚なんて馬鹿くさくて、・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・ 寝食を忘れて愛子を取り守って居る母親は喜ばしい安心に心からの眠りを続けて居るのです。 この二つの寝顔を見守って彼女は目をこすりながら微笑するのでした。 宮本百合子 「二月七日」
・・・に同じ作者によって書かれている自分の家系の物語、愛子物語をあわせ読むと、舟橋氏のヒューマニズムが一般人間性の観念にあやまられ、血肉の情に絡まって今日、どのような洞に頭を向けているかが実に明瞭に分るのである。 このハッピー・エンドのヒュー・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・さんの投書と、「愛子」さんの投書の中に、共産党という三字があって、これを幸とつかまえられたのです。 四十日ばかり経つと、いつの間にか、調べの中心点がかわってきた。初め私は日本プロレタリア文化連盟のことで調べられていたはずなのに、今度はお・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
出典:青空文庫