・・・ 滅びた主家の家臣らが思い思いに離散して行く感傷的な終末に「荒城の月」の伴奏を入れたのは大衆向きで結構であるが、城郭や帆船のカットバックが少しくど過ぎてかえって効果をそぐ恐れがありはしないか。自分がいつも繰り返して言うようにもし映画製作・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・この葛藤に伴なう多くの美しい感傷の場面の連続によって観客の感興をつなぎつつ最後の頂点に導いて行く監督の腕前はそんなに拙であると思われないようである。しかしそういう劇的な脚色の問題とは離れて、前記の「実験」の意味からいうと、本筋のストーリーよ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 姉の口ぶりがひどく感傷的になってきたので、道太は妙な感じがした。「それに話しがちがうとか支度がないとか言って、このごろ老人たちが私に当たってばかりいるんです」「万事は僕がよく話しておいたんだが、そんなことを言えば、こっちだって・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・しかし津田はとにかく三吉が黙っているのは、よくわからぬばかりでなくて、小野の態度が極端なうたぐりと感傷とで、ときにはたわいなくさえみえてくるのが不満だった。たとえば議論の焦点がきまると、それを小野の方から飛躍させられて“そりゃァ、労働者の自・・・ 徳永直 「白い道」
・・・私は少し前まで、高校で一緒にいた同窓生と、忽ちかけ離れた待遇の下に置かれるようになったので、少からず感傷的な私の心を傷つけられた。三年の間を、隅の方に小さくなって過した。しかしまた一方には何事にも促らわれず、自由に自分の好む勉強ができるので・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・ 尾崎士郎氏は名調子の感傷とともにではあるが、それとは異った他の人間的情況のスナップをつたえようとしている。榊山氏の文章は虚無的な色調の上に攪乱された神経と、破れて鋭い良心の破片の閃きとで或る種の市街戦の行われている国際都市の或る立場の・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・や「単なる興奮と感傷」に満足しないで、労働階級は生産機関を握り、社会の運転を担当している階級なのだから、ブルジョア文学者のうかがい知ることの出来ない生産と労働と搾取との世界を解剖し、描写すべきであると主張された。 プロレタリア文学運動が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・のウファ映画によくつき纏っている感傷性とは違った世界が描き出されたのではなかろうか。 その日は雨降りだから、すいているだろうと思って昼間の武蔵野館へ行ってみたのであったが、一杯のいりであった。たくさんの女のひとが熱心にみている。ぴったり・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・従って、自己の確かでない感傷的な青年であった私は、自分が道義的にフラフラしているゆえをもって無意識に先生を恐れた。そうして先生の方へ積極的に進んで行く代わりに、先生の冷たさを感じていた。こういう感じを抱いた者はおそらく私一人ではなかったろう・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・ 苦患に背を向け、感傷的に慟哭し、饒舌に告白する。かくしてもまた苦患の終わりを経験することはできる。しかしそれを真に苦しみに堪えたと呼ぶことはできない。 卑近の例を病気に取ってみよう。病苦は病の癒えるまで、あるいは病が生命を滅ぼすま・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫