・・・余輩の考にては、この妙策に感服するを得ざるなり。 然りといえども、また一方より論ずれば、人民の智力発達するにしたがいてその権力を増すもまた当然の理なり。而してその智力は権衡もって量るべきものに非ざれば、その増減を察すること、はなはだ難し・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・左れば古来世に行わるゝ和文字の事も単に之を美術の一部分として学ぶは妙なりと雖も、女子唯一の学問と認めて畢生勉強するが如きは我輩の感服せざる所なり。一 女子の徳育には相当の書籍もある可し、父母長者の物語もある可しと雖も、書籍読むよりも物語・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ みんなはすっかり感服しました。 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・ さむらいは銀扇をパッと開いて感服しましたが、六平は余りの重さに返事も何も出来ませんでした。 さむらいは扇をかざして月に向って、「それ一芸あるものはすがたみにくし」と何だか謡曲のような変なものを低くうなりながら向うへ歩いて行きま・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・ビジテリアン諸氏が折角菜食を実行し又宣伝するのを見た処で感服はしても容易に真似はしない。則ち肉類の需要が減ずるものでもなし又私たちの組合がこわれたり会社が破産したりするものではない。だから一向反対宣伝も要らなければこの軽業テントの中に入って・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・昔新響の演奏会で指揮棒を振っていた後姿、その手首の癖などを見馴れた近衛秀麿氏が水もしたたる島田娘の姿になって、眼ざしさえ風情ありげにうつっているのもまことに感服ものであるが、その左側に文麿公が、髪までをヒットラー風に額へかきおろし、腕に卍の・・・ 宮本百合子 「仮装の妙味」
・・・とYが感服した。「年のせいもあるわ」 三人が抓みっこをしていたテーブルに、夕刊が一枚あった。私がどけようとすると、「あ一寸」とYがとめた。「その本を買うんですよ」 石川啄木の歌が広告に利用してあった。「働けど・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・その手紙をお母様からいただき、私はいろいろ感服いたしました。 私の机の上に一寸想像おできにならない物品がふえました。寒暖計。今五十度です。林町の母の臨終の枕元にあったものの由です。というのは私はその時、迚も寒暖計などは目に入れる余裕がな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そして反対に情調のある文芸というものが例で示してあったが、それが一々木村の感服しているものでなかった。中には木村が、立派な作者があんな物を書かなければ好いにと思ったものなんぞが挙げてあった。 一体書いてある事が、木村には善くは分からない・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・初めのうちは、弟子たちが漱石に対して無遠慮であることから、非常に自由な雰囲気を感じたし、やがてそのうちに、前に言ったような弟子たちの甘えに気づいて、それを諧謔の調子で軽くいなしている漱石の態度に感服したのである。楯を突いていた連中でも、たま・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫