・・・こんな、ヒョットコの鼻つまりみたいな顔をしていても、案外、天才なのかも知れない。慄然。おどかしやがる。これだから、僕は、文学青年ってものは苦手なんだ。とにかくお世辞を言おう。「題が面白いですものねえ。」「ええ、時代の好みに合ったとい・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・このご説法のころは、われらの心も未だ仲々善心もあったじゃ、小禽の家に至るとお説きなされば、はや聴法の者、みな慄然として座に耐えなかったじゃ。今は仲々そうでない。今ならば疾翔大力さま、まだまだ強く烈しくご説法であろうぞよ。みなの衆、よくよく心・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・無惨な特攻隊を考え出すような非人間な権力の重圧からインテリゲンツィアをこめる日本の全人民を解放しようとする運動に献身し、警察で殺されなければならなかったこととを、単に歴史の両面の現象と云い切る心には、慄然とさせるものがある。それは、殺した側・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・無限の悲哀を誘うこの現実と、生殺与奪の権利をもった男たち、その父、その良人、その息子からさえ監視されて、貞節に過さなければならなかった女の生涯を眺め合わせたとき、私たちは心から慄然とする。女とはどういう生きものと思われて来たのであったろうか・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・を書こうとも、取材を貫徹して、維新が、封建的地主絶対主義支配の門出であるという特性をわれらに示し、こんにちの窮乏した農民の革命的高揚、その娘が年々多く吉原に売られてくるという慄然たる事実の根源は、明治維新の農民搾取制度にみることが摘発されな・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
出典:青空文庫