・・・労働者が、緊張した態度で部署に縛りつけられていた。 吉田はその工場に対してのある策戦で、蒸暑い夜を転々として考え悩んでいた。 蚊帳の中には四つになる彼の長男が、腐った飯粒見たいに体中から汗を出して、時計の針のようにグルグル廻って、眠・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・但し其これを議論するに声色を温雅にするは上流社会の態度に於て自然に然る可し。我輩に於ても固より其野鄙粗暴を好まず、女性の当然なりと雖も、実際不品行の罪は一毫も恕す可らず、一毫も用捨す可らず。之が為めに男子の怒ることあるも恐るゝに足らず、心を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・で、社会主義ということは、実社会に対する態度をいうのだが、同時にまた、一方において、人生に対する態度、乃至は人間の運命とか何とか彼とかいう哲学的趣味も起って来た。が、最初の頃は純粋に哲学的では無かった……寧ろ文明批評とでもいうようなもので、・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・この男の物を書く態度はいかにも規則正しく、短い間を置いてはまた書く。その間には人指し指を器械的に脣の辺まで挙げてまた卸す。しかし目は始終紙を見詰めている。 この男がどんな人物だと云うことは、一目見れば知れる。態度はいかにも威厳があって、・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・一人のやっぱり技師らしい男がずいぶん粗暴な態度で壇に昇りました。「諸君、私の疑問に答えたまえ。 動物と植物との間には確たる境界がない。パンフレットにも書いて置いた通りそれは人類の勝手に設けた分類に過ぎない。動物がかあいそうならいつの・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・カメラのつかいかたを、実着にリアリスティックに一定していて、雰囲気の描写でもカメラの飛躍で捕えようとせず、描くべきものをつくってカメラをそれに向わせている態度である。こういう点も、私の素人目に安心が出来るし、将来大きい作品をつくって行く可能・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・ 丁度近所の人の態度と同じで、木村という男は社交上にも余り敵を持ってはいない。やはり少し馬鹿にする気味で、好意を表していてくれる人と、冷澹に構わずに置いてくれる人とがあるばかりである。 それに文壇では折々退治られる。 木村はただ・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・作家の本業というのは、日々の生活に際して、態度を定めていくということだ。この態度から生れて来る創作というものは、その結果からにちがいはないとしても、創作をするという動作は、たしかに本業ではなくて副業である。創作することが副業であるなら、滅び・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・子供の正直な心は無心に父親の態度を非難していたのです。大きい愛について考えていた父親は、この小さい透明な心をさえも暖めてやることができませんでした。 私は自分を呪いました。食事の時ぐらいはなぜ他の者といっしょの気持ちにならなかったのでし・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫