・・・一人は、今は小使を志願しても間に合わない、慢性の政治狂と、三個を、紳士、旦那、博士に仕立てて、さくら、というものに使って、鴨を剥いで、骨までたたこうという企謀です。 前々から、ちゃら金が、ちょいちょい来ては、昼間の廻燈籠のように、二階だ・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・――『慢性モヒ中毒。無苦痛根本療法、発明完成。主効、慢性阿片、モルヒネ、パビナール、パントポン、ナルコポン、スコポラミン、コカイン、ヘロイン、パンオピン、アダリン等中毒。白石国太郎先生創製、ネオ・ボンタージン。文献無代贈呈。』――『寄席芝居・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・それが無意識な軽微の慢性的郷愁と混合して一種特別な眠けとなって額をおさえつけるのであった。この眠けを追い払うためには実際この一杯のコーヒーが自分にはむしろはなはだ必要であったのである。三時か四時ごろのカフェーにはまだ吸血鬼の粉黛の香もなく森・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・それで近年難儀な慢性の病気にかかって以来、私は満員電車には乗らない事に、すいた電車にばかり乗る事に決めて、それを実行している。 必ずすいた電車に乗るために採るべき方法はきわめて平凡で簡単である。それはすいた電車の来るまで、気長く待つとい・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・それにお前さんのからだは大地の底に居たときから慢性りょくでい病にかかって大分軟化してますからね、どうも恢復の見込がありません。」病人はキシキシと泣く。「お医者さん。私の病気は何でしょう。いつごろ私は死にましょう。」「さよう、病人・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・高度に発達した資本主義国は、そのころ急速に資本の独占化にすすんで、いわゆる合理化の結果、どこでも慢性的な大衆失業にくるしんでいた。イギリスでマクドナルドの労働党が多数をしめて労働党内閣となったのも、生活を打開しようとする大衆の要望のあらわれ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・主婦そのものが、家族のために食べものをやりくりして自分は慢性の栄養不良に陥っていることは、何も昨今の日本にはじまったことではなかった。経済の困難が一定の限度をこえるとその家の妻、母である女性がいつも先ず第一に自身を飢えさせて来た。今日一般に・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
・・・今日、あらわな慢性の飢餓の状態に立ち到るまでには、いくつかの段階があって、そのたびにいろいろな警告が発せられました。配給を公平にせよ、横流しをするな、闇をとりしまれ、公徳心を発揮せよ、と云われたのですが、そのききめは、どの位のものでしたろう・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・ 私の心臓が慢性的に弱ったのは、この第二のことからです。その時は、オリザニンの注射その他の治療で直そうとし、大して苦情なく暮すようになって、貴方に初めてお目にかかれた十二月初旬には、もう自分の体のことなどお話する必要なく感じて居たのでし・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・彼は一組の男女が人類的な奉仕のためにどんな努力をしようともしないで、一つの巣の中にからまりあって、安逸と些末な家事的習慣と慢性的な性生活をダラダラと送っている状態を堕落としておそれ憎んだ。そして本当の真面目な結婚生活というものがあり得るなら・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫