・・・ いや、いや、支那の警察が手ぬるいことは、香港でもう懲り懲りしている。万一今度も逃げられたら、又探すのが一苦労だ。といってあの魔法使には、ピストルさえ役に立たないし、――」 遠藤がそんなことを考えていると、突然高い二階の窓から、ひらひら・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・が、勿論実生活の上では安全地帯の外に出ることはたった一度だけで懲り懲りしてしまった。 或自殺者 彼は或瑣末なことの為に自殺しようと決心した。が、その位のことの為に自殺するのは彼の自尊心には痛手だった。彼はピストルを手にし・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・椿岳さんの画には最う懲り懲りしたと、楢屋はその後椿岳の噂が出る度に頭を掻き掻き苦笑した。浅草絵と浅草人形 椿岳のいわゆる浅草絵というは淡島堂のお堂守をしていた頃の徒然のすさびで、大津絵風の泥画である。多分又平の風流に倣ったのであろう・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・しかしだんだん気候が寒くなって後にくうと、すぐに腹を傷めるので、前年も胃痙をやって懲り懲りした事がある。梨も同し事で冬の梨は旨いけれど、ひやりと腹に染み込むのがいやだ。しかしながら自分には殆ど嫌いじゃという菓物はない。バナナも旨い。パインア・・・ 正岡子規 「くだもの」
出典:青空文庫