・・・場主の松川は少からざる懸賞までした。しかし手がかりは皆目つかなかった。疑いは妙に広岡の方にかかって行った。赤坊を殺したのは笠井だと広岡の始終いうのは誰でも知っていた。広岡の馬を躓かしたのは間接ながら笠井の娘の仕業だった。蹄鉄屋が馬を広岡の所・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・何でも短冊は僅か五、六枚ぐらいしか書かなかったろうという評判で、短冊蒐集家の中には鴎外の短冊を懸賞したものもあるが獲られなかった。 日露戦役後、度々部下の戦死者のため墓碑の篆額を書かせられたので篆書は堂に入った。本人も得意であって「篆書・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・いっそ、破ったほうがいい。いっそ、懸賞募集を狙いましょうか。黙ってる方がかしこいでしょう。然し、太宰治さん、できたら、ぼくに激励のお手紙を下さい。もう四日出勤して五日も経てば、ぼくは腐りの絶頂でしょう。今晩は手紙を書くのがイヤです。明晩明後・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・そうした処女地を探険するのが今の映画製作者のねらいどころであり、いわば懸賞の対象でなければならない。それでたとえばアメリカ映画における前述のレヴューの線条的あるいは花模様的な取り扱い方なども、そうした懸賞問題への一つの答案として見ることもで・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ある学会で懸賞問題を出して答案を募ったが、その問題は「コップに水を一杯入れておいて更に徐々に砂糖を入れても水が溢れないのは何故か」というのであった。応募答案の中には実に深遠を極めた学説のさまざまが展開されていた。しかし当選した正解者の答案は・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
ブルジュア・ジャーナリズムで行われるいろいろの懸賞募集の選は、いつも必ずブルジュア・ジャーナリズムの利害の見地でやられる。 当選した文章が、だから、いつもその時応募した数百のものの中で一番正鵠を得て書かれているとか、科・・・ 宮本百合子 「反動ジャーナリズムのチェーン・ストア」
・・・ 日出新聞社が懸賞で脚本を募ったとき、木村は選者になった。木村は息も衝けない程用事を持っている。応募脚本を読んでいる時間はない。そんな時間を拵えるとすれば、それは烟草休の暇をそれに使う外はない。 烟草休には誰も不愉快な事をしたくはな・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫