・・・それに心附いた時は、もうコップ半分も残ってはいぬ時で、大抵はからからに乾燥いで咽喉を鳴らしていた地面に吸込まれて了っていた。 この情ない目を見てからのおれの失望落胆と云ったらお話にならぬ。眼を半眼に閉じて死んだようになっておった。風は始・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・そしてまた、自分が嬶や子供の為めに自分を殺す気になれないと同じように、彼女だってまた亭主や子供の為めに乾干になると云うことは出来ないのだ」彼はまた斯うも思い返した。……「お父さんもう行きましょうよ」「もう飽きた?」「飽きちゃった・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・そして街から街へ、先に言ったような裏通りを歩いたり、駄菓子屋の前で立ち留まったり、乾物屋の乾蝦や棒鱈や湯葉を眺めたり、とうとう私は二条の方へ寺町を下り、そこの果物屋で足を留めた。ここでちょっとその果物屋を紹介したいのだが、その果物屋は私の知・・・ 梶井基次郎 「檸檬」
・・・灘山の端を月はなれて雲の海に光を包めば、古城市はさながら乾ける墓原のごとし。山々の麓には村あり、村々の奥には墓あり、墓はこの時覚め、人はこの時眠り、夢の世界にて故人相まみえ泣きつ笑いつす。影のごとき人今しも広辻を横ぎりて小橋の上をゆけり。橋・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・集めてこれを水ぎわを去るほどよき処、乾ける砂を撰びて積みたり。つみし物はことごとく濡いいたり。 この寒き夕まぐれ、童らは何事を始めたるぞ。日の西に入りてよりほど経たり。箱根足柄の上を包むと見えし雲は黄金色にそまりぬ。小坪の浦に帰る漁船の・・・ 国木田独歩 「たき火」
・・・「此の山のていたらく……戌亥の方に入りて二十余里の深山あり。北は身延山、南は鷹取山、西は七面山、東は天子山也。板を四枚つい立てたるが如し。此外を回りて四つの河あり。北より南へ富士河、西より東へ早河、此は後也。前に西より東へ波木井河の中に・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・それを弥が上にもアコギな掘出し気で、三円五十銭で乾山の皿を買おうなんぞという図ずうずうしい料簡を腹の底に持っていたとて、何の、乾也だって手に入る訳はありはしない。勧業債券は一枚買って千円も二千円もになる事はあっても、掘出しなんということは先・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・土地の人これを重忠の鬢水と名づけて、旱つづきたる時こを汲み乾せば必ず雨ふるよしにいい伝う。また二つ岩とて大なる岩の川中に横たわれるあり。字滝の上というところにかかれる折しも、真昼近き日の光り烈しく熱さ堪えがたければ、清水を尋ねて辛くも道の右・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・時に明日の晩からは柳原の例のところに○州屋の乾分の、ええと、誰とやらの手で始まるそうだ、菓子屋の源に昨日そう聞いたが一緒に行きなさらぬか。「往かれたら往こうわ、ムムそれを云いに来たのか。「そうさ、お互に少し中り屋さんにならねばならん・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・ 乾盃! なんですか? これは。ガソリンのようなにおいがしますね。 サントリイ。 え? サントリイウイスキイ。無色透明なるサントリイウイスキイ。一升百五十円。 冗談じゃない。 いや、そこが面白いところさ。・・・ 太宰治 「春の枯葉」
出典:青空文庫