・・・あの前編前半のクライマックスを成す刃傷の心理的経過をもう少し研究してほしいという気がする。自分の見る点では、内匠頭はいよいよ最後の瞬間まではもっとずっと焦躁と憤懣とを抑制してもらいたい。そうして最後の刹那の衝動的な変化をもっと分析して段階的・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・の一部を成すところの科学はやはり「言葉」でつづられた記録でありまた予言であり、そうしてわれわれのこの世界に普遍的なものでなければならないのである。 文字で書き現わされていて、だれでもが読めるようになったものでなければ、それはやはり科学で・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・しかし、ヘブライ語の相撲という言葉の根幹を成す「アバク」という語は本来「塵埃」の意味があるからやはり地べたにころがしっこをするのであったかもしれない。そうして相撲の結果として足をくじいてびっこを引くこともあったらしい。それから、これは全く偶・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・近来はしばしば、家庭の不幸に遇い、心身共に銷磨して、成すべきことも成さず、尽すべきことも尽さなかった。今日、諸君のこの厚意に対して、心窃に忸怩たらざるを得ない。幼時に読んだ英語読本の中に「墓場」と題する一文があり、何の墓を見ても、よき夫、よ・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・其両親に遠ざかるは即ち之に離れざるの法にして、我輩の飽くまでも賛成する所なれども、或は家の貧富その他の事情に由て別居すること能わざる場合もある可きなれば、仮令い同居しても老少両夫婦の間は相互に干渉することなく、其自由に任せ其天然に従て、双方・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・さればこそ習慣は第二の天性を成すといい、幼稚の性質は百歳までともいう程のことにて、真に人の賢不肖は、父母家庭の教育次第なりというも可なり。家庭の教育、謹むべきなり。 然るに今、この大切なる仕事を引受けたる世間の父母を見るに、かつて子を家・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・この家の内に養われてこの事情を目撃する子供にして、果たして何らの習慣を成すべきや。家内安全を保護する道徳の教えも、貴重は則ち貴重なれども、更に貴重なる公務には叶わぬものなりとて、既に公務に対して卑屈の習慣を養成し、次いで年齢に及びて人間社会・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・けだし人生の教育は生れて家風に教えられ、少しく長じて学校に教えられ、始めて心の体を成すは二十歳前後にあるものの如し。この二十年の間に教育の名を専にするものは、ただ学校のみにして、凡俗また、ただ学校の教育を信じて疑わざる者多しといえども、その・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・すなわち人間の家を成すものにして、これを私徳の美という。内に私徳の修まるあれば、外に発して朋友の信となり、治者被治者の義となり、社会の交際法となるべし。 けだし社会は個々の家よりなるものにして、良家の集合すなわち良社会なれば、徳教究竟の・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・如何となれば、夫婦既に配偶の大倫を紊りて先ず不徳の家を成すときは、この家に他の徳義の発生すべき道理あらざればなり。近く有形のものについて確かなる証拠を示さんに、両親の身体に病あればその病毒は必ず子孫に遺伝するを常とす、人の普く知る所にして、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫