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・・・今はもう敵打は、成否の問題ではなくなっていた。すべての懸案はただその日、ただその時刻だけであった。甚太夫は本望を遂げた後の、逃き口まで思い定めていた。 ついにその日の朝が来た。二人はまだ天が明けない内に、行燈の光で身仕度をした。甚太夫は・・・
芥川竜之介
「或敵打の話」
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・・・その一例は第一部でグレエトヘンが恋の成否を占う花はステルンブルウメと原本にある。それを江南紫と書いたが、私自身に不安心なので、牧野富太郎さんに問い合せた。すると牧野さんが精しく調べて返事をして下すった。どうもドイツで単にステルンブルウメと云・・・
森鴎外
「訳本ファウストについて」