・・・しかし我我人間は衣食住の便宜を失った為にあらゆる苦痛を味わっている。いや、衣食住どころではない。一杯のシトロンの飲めぬ為にも少からぬ不自由を忍んでいる。人間と云う二足の獣は何と云う情けない動物であろう。我我は文明を失ったが最後、それこそ風前・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・……我人ともに年中螻では不可ません、一攫千金、お茶の子の朝飯前という……次は、」 と細字に認めた行燈をくるりと廻す。綱が禁札、ト捧げた体で、芳原被りの若いもの。別に絣の羽織を着たのが、板本を抱えて彳む。「諸人に好かれる法、嫌われぬ法・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・心緒無レ美女は、心騒敷眼恐敷見出して、人を怒り言葉※て人に先立ち、人を恨嫉み、我身に誇り、人を謗り笑ひ、我人に勝貌なるは、皆女の道に違るなり。女は只和に随ひて貞信に情ふかく静なるを淑とす。 冒頭第一、女は容よりも心の勝れたるを善・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫