・・・三十余万の寡婦と十余万の戦傷不具者の苦しみと孤児の人生は、彼らのところにはない。とくに日本では、あれらの人々の生活は、わたしたちにみえないところにある力によってかばわれるだろう。すでにその一つのきざしはあらわれている。作家の石川達三が、侵略・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 戦傷者で溢れた野戦病院から、放射線治療班の救援を求める通知がキュリー夫人宛にとどく。マリアは大急ぎで自分の車の設備を調べる。兵士の運転手がガソリンをつめている間に、マリアはいつもながらの小さい白カラーのついた黒い服の上に外套をはおり、・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・きょうの辛さに喘いでいる数十万の未亡人、孤児、戦傷者たちは、かつてはすべて護国の宝であったのだ。法隆寺の例にむきだされた行政官僚の文化に対する無責任は、二月二十一日の読売にのった高瀬荘太郎文相の私立学校つけとどけ木戸御免説となって再現してい・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・日本でも、戦争中戦傷者の発表が奇妙な形で行われた。だんだん小きざみに、部分的に、私たちには総数が一目でのみこめない形で発表された。ナチス・ドイツでは婦人に黒衣を着せなかった。日本ではそういう禁止は出さなかったが、果して生きているやら、死んだ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・二十万人の戦傷不具者・二十万人以上の戦争未亡人、数しれない戦災者たちは、ひきちぎられ、根こそぎされた自身の生活権について、日本のファシズムこそ敵であったという事実を、どこまできもに銘じているだろうか。 米鬼を殺せ! と一頁ごとに刷ってあ・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・ こんどの第二次世界大戦は、ファシズムに対して勝利した国々においてさえ、その社会が蒙った戦傷は深刻で、イギリスでは今年のクリスマスは近代の歴史はじまって以来、はじめてのきりつめたものだった。アメリカでもさまざまの経済上の問題があって、こ・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫