・・・ すぐれた英雄の戦没した後に、こういううわさの生まれたのはいつの世でも同じだと思われる。この戦を歌った当時の詩人の歌の最後の句にも「人はその願う事をやがて信ずる」と言っている。 ピアノの音はこの物語の終わりまでつづいて行った。読み終・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・とは、往古漢楚の戦に、楚軍振わず項羽が走りて烏江の畔に至りしとき、或人はなお江を渡りて、再挙の望なきにあらずとてその死を留めたりしかども、羽はこれを聴かず、初め江東の子弟八千を率いて西し、幾回の苦戦に戦没して今は一人の残る者なし、斯る失敗の・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 東大協同組合出版部から、『きけわだつみのこえ』という戦没学生の手記を集めた本が発行された。戦没した学生たちは、帝国主義の侵略戦争がどんなに人類的な犯罪であるかということを、死の訴えとしてのこした。やがて屍となる自分の靴の底へかくした紙・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ 第一次欧州大戦後、敗戦したドイツではフライブルグ大学教授ヴィットコップによって「戦没学生の手紙」が蒐録され、岩波新書の一冊として翻訳が刊行されていた。真摯な若い心に、戦争の理不尽と幻滅とは、どのように映ったか、しかも猶これらの若者達が・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・〔欄外に〕戦没学生記念像は 東大におくことをことわられた。 一部過激学生の 反戦平和運動に利用されるからと云って。 内田祥三 宮本百合子 「東大での話の原稿」
・・・体位向上徒歩奨励、幼児保健の問題、戦没者の母子寮の設立などと全く背までくっついていて離れられない双生児の歩む姿である。 風俗の心理というものは、このどちらかの一方にだけ範囲を限ってそれぞれのものがあるのではなくて、日常生活における二つの・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
出典:青空文庫