・・・は、そのときどきの勢に属して戯作する文学であった。そして、人間は理性あるものであって、ある状況のもとでは清潔な怒りを発するものであるということを見ないふりして益々高声に放談する文学であった。 読者は、黙ってはいても、判断しているのだ。そ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 翌日読んで、思わず考えに耽った、戯作三昧の馬琴の心持を、又思い出さずには居られない。 馬琴は、何も、眇の小銀杏が、いくら自分を滅茶にけなしたからと云って、「鳶が鳴いたからと云って、天日の歩みが止るものではない」事は知って居るのであ・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・を書いて、当時硯友社派の戯作者気質のつよい日本文学に、驚異をもたらした人であった。硯友社の文学はその頃でも「洋装をした元禄小説」と評されていたのだが、そういう戯文的小説のなかへ、二葉亭四迷はロシア文学の影響もあって非常に進歩した心理描写の小・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・然し一方には江戸文学の伝統をその多方面な才能とともに一身に集めたような魯文が存在し、昔ながらの戯作者気質を誇示し、開化と文化を茶化しつつあった。このような形で発端を示している新しいものと旧いものとの相剋錯綜は、日本文学の今日迄に流派と流派と・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・御承知の通り江戸時代の戯作者の作品には実にくだらないものが多いが、ああいうものを一々まじめに読んで、学問的にちゃんと整理しなくてはならないとなると、どうにもやりきれないという気がする。それよりも自分の好きなものを、時代のいかんを問わず、また・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫