・・・はない、鴎外は無用の雑談冗弁をこそ好まないが、かつてザクセンの建築学会で日本家屋論を講演した事がある、邦人にして独逸語を以て独逸人の前で演説したのは余を以て嚆矢とすというような論鋒で、一々『国民新聞』所載の文章を引いては、この処筆者の風彷彿・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・歴史文学所載の貴文愉快に拝読いたしました。上田など小生一高時代からの友人ですが、人間的に実にイヤな奴です。而るに吉田潔なるものが何か十一月号で上田などの肩を持ってぶすぶすいってるようですが、若し宜しいようでしたら、匿名でも結構ですから、何か・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 改造十一月号所載、佐藤春夫作「芥川賞」を読み、だらしない作品と存じました。それ故に、また、類なく立派であると思った。真の愛情は、めくらの姿である。狂乱であり、憤怒である。更に、 寝間の窓から、羅馬の燃上を凝視して、ネロは、黙し・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・十一月号所載、北村謙次郎の創作、「終日。」絶対の沈黙。うごかぬ庭石。あかあかと日はつれなくも秋の風。あは、ひとり行く。以上の私の言葉にからまる、或る一すじの想念に心うごかされたる者、かならず、「終日。」を読むべし。私、かれの本の出版を待つこ・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・アサヒグラフ所載のものであって、児島喜久雄というひとの解説がついている。「背景は例の暗褐色。豊かな金髪をちぢらせてふさふさと額に垂らしている。伏目につつましく控えている碧い神経質な鋭い目も、官能的な桜桃色の唇も相当なものである。肌理の細かい・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・宅の近所のA家は新聞所載のA家と同一か。同一ならばその家の猫Bと、宅の庭で見かけた猫Cと同一か。そうだとすれば宅の白猫DはそのB=C猫の血族か。 これに対して与えられた事実与件はAという名前の一致。ただし近所のA家に西洋猫がいるかどうか・・・ 寺田寅彦 「ある探偵事件」
一「鉄塔」第一号所載木村房吉氏の「ほとけ」の中に、自分が先年「思想」に書いた言語の統計的研究方法(万華鏡に関する論文のことが引き合いに出ていたので、これを機縁にして思いついた事を少し書いてみる。「わらふ」と laugh につ・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・他日機会があったらもう少し補充してまとめたいと思っているが、本書所載の他の論文にしばしば引き合いに出ている関係上参照の便宜のためにこのままここに採録した次第である。 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 以上は近着の Geographical Review. Oct., 1932. 所載の記事から抄録したものである。 中央アジアではまだ自然が人間などの存在を無視して勝手放題にあばれ回っている。そのために気候風土が変転して都市が砂漠・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・わたくしが中学生の頃初め漢詩を学びその後近代の文学に志を向けかけた頃、友人井上唖々子が『今戸心中』所載の『文芸倶楽部』と、緑雨の『油地獄』一冊とを示して頻にその妙処を説いた。これが後日わたくしをして柳浪先生の門に遊ばしめた原因である。しかし・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
出典:青空文庫