・・・……妻のお里はすこやかに、夫の手助け賃仕事…… とやりはじめ、唄でお山へのぼる時分に、おでん屋へ、酒の継足しに出た、というが、二人とも炬燵の谷へ落込んで、朝まで寝た。――この挿話に用があるのは、翌朝かえりがけのお妻の態度である。・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・それを注意するのは、貧しい家に生まれて親の手助けをするために、早くから工場へいって働くような子供らばかりだ。」といった星がありました。「そうです。あの貧しい家の二人の子供も、もう床の中で目をさましています。」と、やさしい星はいいました。・・・ 小川未明 「ある夜の星たちの話」
一 信吉は、学校から帰ると、野菜に水をやったり、虫を駆除したりして、農村の繁忙期には、よく家の手助けをしたのですが、今年は、晩霜のために、山間の地方は、くわの葉がまったく傷められたというので、遠くからこの辺にまで、くわの葉を買い・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・ 真吉は、外にいても、内にいても、よくお母さんの手助けをしましたが、お父さんがなかったので、奉公に出なければならなくなりました。それも、遠い東京へゆくことになりました。東京には、まだ顔を知らない叔父さんが住んでいられて、いい奉公口をさが・・・ 小川未明 「真吉とお母さん」
・・・また枯れ枝などを拾ってきて、親の手助けなどをいたしたこともありました。こうして二人は、なんでも持っているものは、たがいに貸し合って仲よく遊びました。たまに両親が町へいって買ってきてくれた絵草紙や、おもちゃなどがあると、それを良吉は文雄にも見・・・ 小川未明 「星の世界から」
・・・ 英治さんは、学校を卒業してから、ずっと金木町にいて、長兄の手助けをしていたのだ。そうして、数年前に分家したのである。英治さんは兄弟中で一ばん頑丈な体格をしていて、気象も豪傑だという事になっていた筈なのに、十年振りで逢ってみると、実に優・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・そうして、下男たちは私の手助けを余りよろこばなかったのをやがて知った。私の刈った草などは後からまた彼等が刈り直さなければいけなかったらしいのである。」 これも同時代、大正七、八年の頃の事である。 してみると、いまから三十年ちかく前に・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・少しは家事の手助けもするものです」と魚容の顔をめがけて女のよごれ物を投げつける。魚容はそのよごれ物をかかえて裏の河原におもむき、「馬嘶て白日暮れ、剣鳴て秋気来る」と小声で吟じ、さて、何の面白い事もなく、わが故土にいながらも天涯の孤客の如く、・・・ 太宰治 「竹青」
・・・世人の最も恐怖していたあの日蔭の仕事に、平気で手助けしていた。その仕事の一翼と自称する大袈裟な身振りの文学には、軽蔑を以て接していた。私は、その一期間、純粋な政治家であった。そのとしの秋に、女が田舎からやって来た。私が呼んだのである。Hであ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・それゆえ、君は、その無力の亭主の手助けに、こんな夜かせぎに出なくちゃならなくなってしまった。どうだ、あたっているだろう。」あたるも、あたらぬも無い。私は、二十円とられたのが、なんとしても、いまいましく、むしゃくしゃして、口から出まかせ、さん・・・ 太宰治 「春の盗賊」
出典:青空文庫