・・・ 薄暗い谷底を半町ばかり登った所に、ぼんやりと白い者が動いている。手招きをしているらしい。「なぜ、そんな所へ行ったんだああ」「ここから上がるんだああ」「上がれるのかああ」「上がれるから、早く来おおい」 碌さんは腹の痛・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・ 立つ。手招きする。遠くと遠くで何か合図しあってる。 ――どいてくれ! ホラ! ホラ! クラブの監督がこみ合う尻や背中をかきわけてコムソモールに片棒かつがせ長いベンチをかつぎこんできた。 ――どこへ? ――ここ、此処!・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・と手招きをした。 私は何の気なしに、「なあに。と立って行くと屏風の中に入れられた。 其処には厚い布団に寝かされて大変背の高くなった叔父の体が在ったけれ共別に変な感じも持たずにその人の後に居ると、顔の辺りに掛け・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ 常春藤が木の梢からのび上って見上げようとし、ところどころに咲く白百合は、キラキラ輝きながら手招きをする。 六はもう、得意と嬉しさで有頂天になってしまった。 世界中が俺の臣下のように畏こまって並んでいる。 今こうやって、鳥よ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫