・・・ 後に舟崎が語って言うよう―― いかに、大の男が手玉に取られたのが口惜いといって、親、兄、姉をこそ問わずもあれ、妙齢の娘に向って、お商売? はちと思切った。 しかし、さもしいようではあるが、それには廻廊の紙幣がある。 その時・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・富山の奥で五人の大の男を手玉に取った九歳の親兵衛の名は桃太郎や金太郎よりも熟していた。したがってホントウに通して読んだのは十二、三歳からだろうがそれより以前から拾い読みにポツポツ読んでいた。十四歳から十七、八歳までの貸本屋学問に最も夢中であ・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・絶間なく跡から跡からと煩悶を製造しては手玉に取ってオモチャにする人であった。二葉亭がかつて疑いがあるから哲学で、疑いがなくなったら哲学でなくなるといった通りに、悶えるのが二葉亭の存在であって、悶えがなくなったら二葉亭でなくなる。命のあらん限・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・と佐倉の切炭を手に持ていたが、それを手玉に取りだした。窓の下は炭俵が口を開けたまま並べてある場処で、お源が木戸から井戸辺にゆくには是非この傍を通るのである。 真蔵も一寸狼狽いて答に窮したが「炭のことは私共に解らんで……」と莞爾微笑て・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ 私はもう十五にもなって居て……昔なら御手玉もって御嫁に行った年だのに、まだ大人の着物を引きずって着るのと戸棚の中に入って下を見下して居るのとが妙にすきで、鉛筆の先のまあるいのが大きらいでいそがしい時鉛筆がふとくなると涙がこぼれそう・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・尊王・攘夷という四字をいかにサツマの殿様、徳川、イギリス、フランスが手玉にとって、沢山の血を流させたことか。このところは本当にドラマティックです。〔一九三六年九月〕 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
出典:青空文庫