・・・そこで達雄に愛されていることをすっかり夫に打ち明けるのです。もっとも夫を苦しめないように、彼女も達雄を愛していることだけは告白せずにしまうのですが。 主筆 それから決闘にでもなるのですか? 保吉 いや、ただ夫は達雄の来た時に冷かに訪・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・ 僕は譚の顔を見ると、なぜか彼にはおとといのことを打ち明ける心もちを失ってしまった。「この人の言葉は綺麗だね。Rの音などは仏蘭西人のようだ。」「うん、その人は北京生れだから。」 僕等の話題になったことは含芳自身にもわかったら・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・こうなるとお敏も絶体絶命ですから、今までは何事も宿命と覚悟をきめていたのが、万一新蔵の身の上に、取り返しのつかない事でも起っては大変と、とうとう男に一部始終を打ち明ける気になったのです。が、それも新蔵が委細を聞いた後になって、そう云う恐しい・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ヤコフ・イリイッチの前では、彼に関した事でない限り、何もかも打明ける方が得策だと云う心持を起させられたからだ。彼は始めの中こそ一寸熱心に聴いて居たが、忽ちうるさ相な顔で、私の口の開いたり閉じたりするのを眺めて、仕舞には我慢がしきれな相に、私・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・ついでながら申しますが、この事件について、前以て問題の男に打明ける必要はないと信じます。その男にはわたくしが好い加減な事を申して、今明日の間遠方に参っていさせるように致しました。」 この文句の次に、出会うはずの場所が明細に書いてある。名・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・おきみ婆さんに打ち明けると、泣いて賛成してくれました。私もおおげさだったが、おきみ婆さんもおおげさだった。そのころ大宝寺小学校に尋常四年生の花組に漆山文子という畳屋町から通っている子がいて、芸者の子らしく学校でも大きな藤の模様のついた浴衣を・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・真蔵は偖は愈々と思ったが今日見た事を打明けるだけは矢張見合わした。つまり真蔵にはそうまでするに忍びなかったのである。「で御座いますから炭泥棒は何人だか最早解ってます。どう致しましょう」とお徳は人々がこの大事件を喫驚してごうごうと論評を初・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・彼はそのことを打ち明けるのに、市から汽車に乗って三十分ほどで行けるZの海岸にしようと考えた。その海岸は眼路もはるかなといっていいほど砂丘が広々と波打っていた。よく牛が紐のような尻尾で背のあぶを追いながら草を食っていた。彼はそこ以外ではいけな・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・序でながら申しますが、この事件に就いて、前以て問題の男に打明ける必要は無いと信じます。その男にはわたくしが好い加減な事を申して、今明日の間、遠方に参っていさせるように致しました。」 この文句の次に、出会う筈の場所が明細に書いてある。名前・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・の秘密をはじめて打ち明ける。また、大笑い。ああ、早く帰宅の時間が来ればよい。平和な家庭の光を浴びたい。きょうの一日は、ばかに永い。 しめた! 帰宅の時間だ。ばたばたと机上の書類を片づける。 その時、いきせき切って、ひどく見すぼらしい・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
出典:青空文庫