・・・先刻も先刻、今も今、優しいこと、嬉しいこと、可愛いことを聞くにつけ、云おう云おうと胸を衝くのは、罪も報いも無いものを背後からだまし打に、岩か玄翁でその身体を打砕くような思いがして、俺は冷汗に血が交った。な、こんな思をするんだもの、よくせきな・・・ 泉鏡花 「湯島の境内」
・・・それは何でもない小さい出来事ですが、しかし私の心を打ち砕くには十分でした。 私は妻と子と三人で食卓を囲んでいました。私の心には前の続きでなおさまざまの姿や考えが流れていました。で、自分では気がつきませんでしたが、私はいつも考えにふける時・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・ 自然主義は殻の固くなった理想を打ち砕くことに成功した。しかし代わりに与えられたものは、きわめて常識的な平俗な、家常茶飯の「真実」に過ぎなかった。こういうことはいかなる意味でも新発見ではない。昔から数知れぬ人々が腹のなかで心得ていた。そ・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・もし彼に強い意志があったならば、そうして Aesthet となるべく運命づけられているならば、彼はまず精神的傾向を彼がなしたよりももっと深い所まで押し詰めるだろう、そうしてそれを地に打ち砕くだろう。それは Aesthet として徹底する道で・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・この作で特に目につくのは、主人公の我がいかに頑固に骨に食い入っているかをその生い立ちによって明らかにしたこと、夫や妻やその他の人々の利己主義を平等に憎んでいること、その利己主義を打ち砕くべき場合方法などを繰り返し繰り返し暗示していること、結・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫