・・・である、茶は面白いが茶人は駄目である、利休や宗旦は別であるが、外の茶人に物の解った人はない様じゃ、こう一筋に考えたものであったが、今思うとそれは予の考違であった、茶の湯は趣味の綜合から成立つ、活た詩的技芸であるから、其人を待って始めて、現わ・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・今から見れば何でもないように思うが、四十年前俳優がマダ小屋者と称されて乞食非人と同列に賤民視された頃に渠らの技芸を陛下の御眼に触れるというは重大事件で、宮内省その他の反対が尋常でなかったのは想像するに余りがある。その紛々たる群議を排して所信・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ ドリス自身には、技芸の発展が出来なくて気の毒だのなんのと云ったって、分からないかも知れない。結構ずくめの境界である。崇拝者に取り巻かれていて、望みなら何一つわないことはない。余り結構過ぎると云っても好い位である。 ドリスは可哀らし・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 以上の理想を実現させるためには新聞社はあらゆる実務や学術技芸はもちろん一般思想上の各方面について第一流の人たちを記者として網羅しなければならない。これはずいぶん困難な事かもしれない。しかし私は「社会の先導者」としての新聞のほんとうの使・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・劇場前に掲げ出される絵看板は、舞台の技芸よりも更に一層奇怪、残忍、淫褻になった。絵看板と同じく脚本の名題もまたそれに劣らぬ文字が案出されている。レヴューの名題には肉体とか絢爛とか誘惑とかいう文字が羅列され、演劇には姦淫、豺狼、貪乱といったよ・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ 美術学校でこういう文学的の会を設立して、諸君の専門技芸以外に、一般文学の知識と趣味を養成せられるのは大変に面白い事と思います。ただいま正木校長の御話のように文学と美術は大変関係の深いものでありますから、その一方を代表なさる諸君が文学の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・此点に於ては我輩は日本婦人の習慣をこそ貴ぶ者なれば、世は何ほど開明に進むも家は何ほど財産に富むも、糸針の一時は婦人の為めに必要、又高尚なる技芸として努ゆめゆめ怠る可らず。又茶酒など多く飲む可らずと言う。茶も過度に飲めば衛生に害あり、況んや酒・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・無偏・無党の帝室は、帝国の全面を照らして、そのいずれに厚からず、またいずれに薄からず、帝室より降臨すれば、政治の社会も学問の社会も、宗旨も道徳も技芸も農商も、一切万事、要用ならざるものなし。いやしくもこれらの事項について抜群の人物あれば、す・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 小学教育の事 四 方今、世の識者が小学校の得失を論じ、その技芸の教授を先にして道徳の教を後にするを憂る者なきに非ず。たとえば、天文、地理、究理、化学等は技芸なり。孝悌忠信は道徳なり。究理化学を学び得るも、孝悌忠信の道・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 近来世間にいわゆる文明開化の進歩と共に学術技芸もまた進歩して、後進の社会に人物を出し、また故老の部分においても随分開明説を悦んで、その主義を事に施さんとする者あるは祝すべきに似たれども、開明の進歩と共に内行の不取締もまた同時に進歩し、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫