・・・ 侍女たちは、金や、銀を手に取って、一つずつ海の中に投げ込みました。陸の方では、これを知っているわずかの人だけが、お姫さまの船を見送っていたのですが、このとき、海の上が光って、水の中に沈んでいくまばゆい光を、その人々はながめました。そし・・・ 小川未明 「赤い姫と黒い皇子」
・・・な手つきで、――つまり、人さし指と親指と二本だけ使い、あとの三本の指は、ぴんと上に反らせたままの、あの、くすぐったい手つきでチョコレートをつまみ、口に入れるより早く嚥下し、間髪をいれずドロップを口中に投げ込み、ばりばり噛み砕いて次は又、チョ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・その中の一ツは出入りの安吉という植木屋が毎年々々手入の松の枯葉、杉の折枝、桜の落葉、あらゆる庭の塵埃を投げ込み、私が生れぬ前から五六年もかかって漸くに埋め得たと云う事で。丁度四歳の初冬の或る夕方、私は松や蘇鉄や芭蕉なぞに其の年の霜よけを為し・・・ 永井荷風 「狐」
・・・そして桃いろの封筒へ入れて、岩手郡西根山、山男殿と上書きをして、三銭の切手をはって、スポンと郵便函へ投げ込みました。「ふん。こうさえしてしまえば、あとはむこうへ届こうが届くまいが、郵便屋の責任だ。」と先生はつぶやきました。 あっはっ・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・陳氏はそれに口火をあてて、急いでのろし筒に投げ込みました。しばらくたって、「ドーン」けむりと一緒に、さっきの玉は、汽車ぐらいの速さで青ぞらにのぼって行きました。二人の子供も、恭しく腕を拱いて、それを見上げていました。たちまち空で白いけむりが・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫