・・・わたくしはまた飛びすさりながら、抜き打ちに相手を払いました。数馬の脾腹を斬られたのはこの刹那だったと思いまする。相手は何か申しました。………」「何かとは?」「何と申したかはわかりませぬ。ただ何か烈しい中に声を出したのでございまする。・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・主食と闇煙草の販売を弾圧する旨の声明は、わざわざ何月何日よりと予告を発して、これまで十数回発表されたし、抜打ちの検挙も行われる。が依然として、街頭のパンやライスカレーは姿を消さず、また、梅田新道の道の両側は殆んど軒並みに闇煙草屋である。・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・肉体が疲れて意志を失ってしまったときには、鎧袖一触、修辞も何もぬきにして、袈裟がけに人を抜打ちにしてしまう場合が多いように思われます。悲しいことですね。この「女の決闘」という小品の描写に、時々はッと思うほどの、憎々しいくらいの容赦なき箇所の・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・こう言って抜打ちに相役を大袈裟に切った。 小姓は静かに相役の胸の上にまたがって止めを刺して、乙名の小屋へ行って仔細を話した。「即座に死ぬるはずでござりましたが、ご不審もあろうかと存じまして」と、肌を脱いで切腹しようとした。乙名が「まず待・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫