・・・で、自宅練修としては銘々自分の好むところの文章や詩を書写したり抜萃したり暗誦したりしたもので、遲塚麗水君とわたくしと互に相争って荘子の全文を写した事などは記憶して居ます。私は反古にして無くして仕舞いましたが、先達て此事を話し出した節聞いたら・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・でたらめばかり書いているんじゃないかと思われてもいけないから、吾妻鏡の本文を少し抜萃しては作品の要所々々に挿入して置いた。物語は必ずしも吾妻鏡の本文のとおりではない。そんなとき両者を比較して多少の興を覚えるように案配したわけである、などと、・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・ その時の映画の種板はたいてい一枚一枚に長方形の桐製のわくがついていて、映画の種類は東京名所や日本三景などの彩色写真、それから歴史や物語からの抜萃の類であった。そのほかに活動映画の先祖とも言われるべき道化人形の踊る絵があった。目をあいた・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・十一時出航、 自分から出した手紙の抜粋、三月一日付、 今日のように春らしい日差しに成って暖で、雨が降ってやんで、水たまりに日が写って居ると法悦に近いような喜びに胸を打れます。総ての人が幸福にならなければなりません。・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・ローレンスの反抗は、フランスの自然主義の初期、その先駆者ゾラなどが、近代科学の成果、その発見を文学にうけ入れるべきだとして、科学書からの抜萃をそのまま小説へはめこんだ、その試みの精神と通じるところがある。 ローレンスは、一方でそのように・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・いつもレコードでオペラの音楽の抜萃を聞いているぐらいだから、音楽としての美しさだけをつよく局部的にうちこまれる。ハルビンあたりから来たロシアオペラだって、人々は、高い金をだして聞いた。 モスクワへ来て、大ものの「ボリス・ゴドノフ」も「サ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・彼等の製作は、どれだけ我々の眼の前に出て来ない沢山の習作の中から抜粋して映画にされたか分らない。だから隠れた時間と労力が沢山ある。そのことについて今問題がある。キノはもう少し早く製作することを習得しなくてはいけないということをいわれている。・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・それは、大変珍らしいものを知っていらっしゃる、どれだけ読みましたかというと、ほんの抜萃のようなもので、日本文学の代表として紹介されているものを読んでおられました。ソヴェトの作家でさえそうですから、他の外国では「源氏物語」という名だけは、或は・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・「お前は抜萃帖か何か作ってるそうだが、そんなことはやめちまわなくちゃいけない。いいかね? そんなことをするのは探偵だけだ」 聖画店の主人は五留の給金を無駄にしないようにゴーリキイを働かした。ゴーリキイは主人が家具、敷物、鏡その他に執・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・「お前は抜萃帖か何かを作っているそうだが、そんなことはやめちまわなくちゃいけない。いいか? そんなことをするのは探偵だけだ!」 一八八一年、ゴーリキイが十三の時、アレキサンダア二世が暗殺された。 人生の矛盾がますますつよくゴ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫