またひとしきり強いのが西の方から鳴って来て、黒く枯れた紅葉を机の前のガラス障子になぐり付けて裏の藪を押し倒すようにして過ぎ去った。草も木も軒も障子も心から寒そうな身慄をした。ちょうど哀れをしらぬ征服者が蹄のあとに残して行く・・・ 寺田寅彦 「凩」
・・・その一方ではまた、きょうは元旦だから腹を立てたりしてはいけないという抑制的心理が働いて来る、そうするとかえってそれを押し倒すような勢いで腹立たしさが腹の底から持ち上がって来るのであった。その瞬間にこの男は突然に、実に突然になくなった父のこと・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・それに比べて、求める心のないうちから嘴を引き明けて英語、ドイツ語と咽喉仏を押し倒すように詰め込まれる今の学童は実にしあわせなものであり、また考えようではみじめなものでもある。 子供の時分にやっとの思いで手にすることのできた雑誌は「日本の・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
出典:青空文庫