・・・レタリア文化』三月特輯号に掲載された同志松山、坂井の論文は、前者は全文化運動の新らしい活動家のタイプ、指導的理論家としての同志小林の輝やかしい発展を跡づけることによって、後者は前衛作家同志小林の全貌を押し出すことによって、同志小林の業績から・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・ベルニィ夫人はバルザックを世間に押し出すために全く「母以上のもの、友達以上のもの、一人の人間が他の人間に対してなし得るすべてのものに優る」献身的な情愛と社交婦人としての実際的な手腕を傾けたのであった。彼女はバルザックをカストリィ公爵夫人のサ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・私は私がどうにも斯うにもならない様な重い曇った気持をわざとかくす様に押し出す様な笑い方をして見たりわざと下らないじょうだんをしたりして家に帰る時には涙をこぼして居た。まるで見もしらない舞姫なんかとどうしてこんな涙の出るほど別れるのがいやにな・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・、情熱というものをつきつめて行くと、現在の日本のような社会の中では現在あるままの社会生活で女との関係を考えている男の人たちにとって、あんまり都合よくないようなものが、案外いきいきした、つまり歴史を前に押し出すような性質を持った女の感情であり・・・ 宮本百合子 「不満と希望」
・・・ 作者の朝から夜をとりまく現実の力が、やがて彼の性格の積極面を正しく押し出すようになって、実践的に階級人としての移行が起るにつれ、芸術に関する道も当然新たな方向に発展せしめられた。彼は、プロレタリア文学の陣営に、過去の文学的教養のよいも・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・の作者、シャルル・ルイ・フィリップも熱心な彼女の支持者であったが、自分のためにさえ何もなし得なかったフィリップにはマルグリットを世のなかに押し出す力はなかった。それをしたのは、この日本訳にも序文の出ているオクタアヴ・ミルボオ「小間使いの日記・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・だから、自身生かしきれぬ純な情感に苦しむとき、その無力と躊躇と昏迷した考えをてきぱきと解明して、後からつよく押し出すものよりは、音楽にしろ、映画にしろ、小説にしろ、あるままの生活の感情を認めて、一緒にたゆたって、ほのかになって、眠らしてくれ・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
・・・高田の鋭く光る眼差が、この日も弟子を前へ押し出す謙抑な態度で、句会の場数を踏んだ彼の心遣いもよくうかがわれた。「三たび茶を戴く菊の薫りかな」 高田の作ったこの句も、客人の古風に昂まる感情を締め抑えた清秀な気分があった。梶は佳い日の午・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫