・・・七月号K誌おみくじの作を拝見し、それに対するいたずら書きさしあげて以来の御無沙汰です。いや御通知いたしかねていたのです。半僧坊のおみくじでは、前途成好事――云々とあったが、あの際大吉は凶にかえるとあの茶店の別ピンさんが口にしたと思いますが、・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・ と未だ言い了らぬに上村と呼ばれし紳士は快活な調子で「ヤ、初めて……お書きになった物は常に拝見していますので……今後御懇意に……」 岡本は唯だ「どうかお心安く」と言ったぎり黙って了った。そして椅子に倚った。「サアその先を……・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 拝見な。よう拝見な」と自分にあまえてぶら下った。「可けないと言うに!」と自分は少女を突飛ばすと、少女は仰向けに倒れかかったので、自分は思わずアッと叫けんでこれを支えようとした時、覚れば夢であって、自分は昼飯後教員室の椅子に凭れたまま転・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・日蓮は「天の御気色を拝見し奉るに、以ての外に此の国を睨みさせ給ふか。今年は一定寄せぬと覚ふ」と大胆にいいきった。平ノ左衛門尉はさすがに一言も発せず、不興の面持であった。 しかるに果して十月にこの予言は的中したのであった。 彼はこの断・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
九月二十五日――撫順 今度の事変で、君は、俺の一家がどうなったか、早速手紙を呉れた。今日、拝見した。――心配はご無用だ。別条ない。 俺は、防備隊に引っぱり出された。俺だけじゃない。中学三年の一郎までが引っぱり出され・・・ 黒島伝治 「防備隊」
・・・……東京イ来てもう五十日からになるのに、まだ天子さんのお通りになる橋も拝見に行っとらんのじゃないけ。」 両人は所在なさに、たび/\こんな話を繰り返えした。天子さんのお通りになる橋とは二重橋のことだった。「今日、清三が会社から戻ったら・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・かつて貴堂において貴鼎を拝見しました時、拙者はその大小軽重形貌精神、一切を挙げて拙者の胸中に了りょうりょうと会得しました。そこで実は倣ってこれを造りましたので、あり体に申します、貴台を欺くようなことは致しませぬ」といった。丹泉は元来毎つねづ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・へ特筆大書すべき始末となりしに俊雄もいささか辟易したるが弱きを扶けて強きを挫くと江戸で逢ったる長兵衛殿を応用しおれはおれだと小春お夏を跳ね飛ばし泣けるなら泣けと悪ッぽく出たのが直打となりそれまで拝見すれば女冥加と手の内見えたの格をもってむず・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・「どれ、何の土産をくれるか、一つ拝見せず」 とおげんは新しい菓子折を膝に載せて、蓋を取って見た。病室で楽しめるようにと弟の見立てて来たらしい種々な干菓子がそこへ出て来た。この病室に置いて見ると、そんな菓子の中にも陰と陽とがあった。お・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・御書きに成ったものは克く雑誌で拝見していました」と原は丁寧に挨拶する。 青木は銀縁の眼鏡を掛けた、髪を五分刈にしている男で、原の出様が丁寧であった為に、すこし極りのわるそうに挨拶した。「是方は」と相川は布施の方を指して、「布施君――・・・ 島崎藤村 「並木」
出典:青空文庫