・・・もとより倫理学としては、その学の中で解決を求めて追求するのが学の任務であるが、一般に学の約束として、それは絶えざる認識の拡充としての永久の追求であっていいのである。しかし生の問いは解決されることを要する。したがって学の中にとどまっていること・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ われわれはインテリゼンスの階層である読書青年が今その旺盛な知識欲をもって、その知的胃腑を満たし、また思考力を操練せねばならないとき、知性の拡充よりもその揚棄を先きに説かんと欲するものではない。しかしながら知性そのものにもその階層がある・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・今日の婦人の職業的進出は一面たしかに婦人の生活欲望の開発と拡充との線にそえるものではあるが、他面においては生活のための余儀なき催促によるものである。男子が独力で妻子を養うことができないための共稼ぎの必要によるものである。適当の収入さえあれば・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・主人の美術定義を拡充して之を小説に及ぼせばとて同じ事なり。抑々小説は浮世に形われし種々雑多の現象の中にて其自然の情態を直接に感得するものなれば、其感得を人に伝えんにも直接ならでは叶わず。直接ならんとには摸写ならでは叶わず。されば摸写は小説の・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・けれども、時局の要求する生産拡充への大努力によって重工業、化学、食料、織縫などには、大量に女の力が吸収されつつある。全国に十万人も熟練工が不足を告げているという事実は、今日の大問題とされているのである。処々の大工場、実務学校などで熟練工の養・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ていて、作家の創作的意図で作品が作家の生活の外でどしどし纏められてゆく危険に曝されていたのであるが、社会的な素材を文学に持込もうという意図が作者の内面ときりはなされて旺盛になったことは、時局と共に生産拡充の呼び声に惹きつけられて行った。・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫