・・・この廊下一面の凝霜の少なくも一部分は、隊員四十余名の口から吐きだされた水蒸気がこの廊下へ拡散して来て徐々に凝結したものではないかと想像してみた。そう想像することによって隊員の忍苦の長い時間的経過を味わうことができる。 バードが極飛行から・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これがみな複雑な渦動の団塊であって、六かしい運動を続けながら、だんだんに拡散して行くのである。昨年九月一日被服廠跡で起った火焔の渦巻を支配したと同じ方則がここにも支配しているのだろうと思って、一生懸命に眺めていたが、この模糊とした煙の中から・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・てもいいわけであるが、この動的なそうしてすでによく知られて研究し尽くされた波形はしばらく別物として取り除いて、ここではそれ以外の natural, staticallyを含むイマジナリーな部分から成る拡散現象であるとも言われる。おもしろいこ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・その結果として、底面に直接触れていた水はほとんど全部この幅の狭い上昇部に集注され、ほとんど拡散することなくして上昇する。もし器底に一粒の色素を置けば、それから発する色づいた水の線は器底に沿うて走った後にこの上昇流束の中に判然たる一本の線を引・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・人間の歴史のある時期に地球上のある地点に発生した文化の産物は時間の経過とともに人為的のあらゆる障壁を無視して四方に拡散するのは当然である。永代橋から一樽の酒をこぼせば、その中の分子の少なくもある部分はいつかは、世界じゅうの海のいかなる果てま・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
・・・光線に対しては乳色ガラスのランプシェードのように光を弱めずに拡散する効果があり、風に対してもその力を弱めてしかも適宜な空気の流通を調節する効果をもっている。 日本の家は南洋風で夏向きにできているから日本人は南洋から来たのだという説を立て・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ただ少なくも動物学上から見て同種な Homo Sapiens としての人間の世界の一部において任意の時代に発生した文化の産物のすべてのものが、時とともに拡散して行くのは、ちょうど水の中にたらした一滴のアルコホルの拡散して行く過程と、どこか類・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
出典:青空文庫