・・・ 物も云わず拳固で殴りつける音が続けざまにした。暫くしずまったと思うと、「アッ! いけねえ」 とび上るような声が保護室で起った。「仕様がねじゃねえか。オイ、オイ、そっち向いた、そっち向いた」「旦那! 旦那! あけてやって・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・間らしさに立っているものであるにかかわらず、或る時代の風潮としては、文化の欲求や文化の蓄積された成長の段階がその時代の様々の動きを批評し判断する当然の作用を持っていることをよろこばず、自分の頭を自分の拳固で殴りつけるように、文化を否定したり・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ドイツからの作家達は、その時拳固を頭のたかさにあげ、革命的前衛の敬礼をしつつ、歌った。ドイツ語で歌った。ソヴェトの連中はロシア語だ。ドイツ語、ハンガリー語、英語、ロシア語。そこに集った革命的作家の国籍の数だけ言葉数があった。が、一つの瞬間、・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・ 皆に拳固をさしつけられた禰宜様宮田は、部屋の隅の方でコソコソと身仕度をした。 そして、大切そうに皆に取り巻かれ、気分もよほどよくなったらしい面持ちをしながら、家からの迎えを待っている若者を眺めてから、愛くしみに満ち充ちた心を持って・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・と立ちあがって、祖母の居る茶の間の入口に小山の様に大きく膝をついて拳固にした両手の間に頽げて寒そうな頭を落す。「とうとう降りやしたない。寒い事寒い事。と目を細くする。そして私の方を見て、笑いながら、さっきの私の様子を細々と祖・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・議論ニ熱中シタ時ニ親指ヲ立テテ拳固ヲ握ル癖アリ」等々。 今はイタリーからソヴェト同盟に帰って党員となり、老年にかかわらず熱心にソヴェト同盟の社会主義建設に努力しているマキシム・ゴーリキイも室内檻禁にあったことがある。むずかしい顔をし・・・ 宮本百合子 「ロシアの過去を物語る革命博物館を観る」
出典:青空文庫