・・・印刷所の手落ちでは無く、兄がちゃんと UMEKAWA と指定してやったものらしく、uという字を、英語読みにユウと読んでしまうことは、誰でも犯し易い間違いであります。家中、いよいよ大笑いになって、それからは私の家では、梅川先生だの、忠兵衛先生・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・ すこし調子が出て来たぞと思ったら、もう八枚である。指定の枚数である。ふたたび、現実の重苦しさが襲いかかる。読みかえしてみたら、甚だわけのわからぬことが書かれてある。しどろもどろの、朝令暮改。こんなものでいいのかしら。何か気のきいた・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
ほんとうのことは、あの世で言え、という言葉がある。まことの愛の実証は、この世の、人と人との仲に於いては、ついに、それと指定できないものなのかもしれない。人は、人を愛することなど、とても、できない相談ではないのか。神のみ、よ・・・ 太宰治 「思案の敗北」
・・・集り願って、一夜ゆっくり東京のこと、郷里の津軽、南部のことなどお話ねがいたいと存じますので御多忙中ご迷惑でしょうが是非御出席、云々という優しい招待の言葉が、その往復葉書に印刷されて在り、日時と場所とが指定されていた。私は、出席、と返事を出し・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・夜悶悶、陽のめも見得ぬ自責の痩狗あす知れぬいのちを、太陽、さんと輝く野天劇場へわざわざ引っぱり出して神を恐れぬオオルマイティ、遅疑もなし、恥もなし、おのれひとりの趣味の杖にて、わかきものの生涯の行路を指定す。かつは罰し、かつは賞し、雲の無軌・・・ 太宰治 「創生記」
・・・人間については、私もいささか心得があり、たまには的確に、あやまたず指定できたことなどもあったのであるが、犬の心理は、なかなかむずかしい。人の言葉が、犬と人との感情交流にどれだけ役立つものか、それが第一の難問である。言葉が役に立たぬとすれば、・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・ 美しさは、人から指定されて感じいるものではなくて、自分で、自分ひとりで、ふっと発見するものです。「晩年」の中から、あなたは、美しさを発見できるかどうか、それは、あなたの自由です。読者の黄金権です。だから、あまりおすすめしたくないのです。わ・・・ 太宰治 「「晩年」に就いて」
・・・天然物保存地帯として少なくもこの大陸内地の大部分を万国協定で指定してほしいと思うのである。 獅子のいる草原の中にどうも地震による断層らしく見えるものが写っている。あとで地震学者に聞いてみると、あのタンガニイカ湖付近には実際大地震による断・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・可能な道は無限に多様であって、その中の一つを指定すべき与件は一つもないのである。 これと反対に、現世で予測のできない事がらが逆転映画の世界では確定的になるから妙である。たとえば一本の鉛筆を垂直に机上に立てて手を離せば鉛筆は倒れるが、それ・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・しかし実験室で、ある指定された条件のもとにおいて行なわれた実験が必ずしも直接に野外の現象に適用されるかどうかは疑わしい。結局は実際の野外における現象の正確な観察を待つ必要がある。 ギバの現象が現時においてもどこかの地方で存在を認められて・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
出典:青空文庫