・・・ かようにして志と気魄とのある青年は、ややもすれば甘いものしか好むことを知らない娘たちに、どんな青年が真に愛するに価するかを啓蒙して、わが心にかなう愛人に育てあげるくらいの指導性を持たねばならぬ。 娘たちに求愛し、その好みにそわんと・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・街頭に立って大衆に呼びかけ、政治を批判し、当局に対決をいどみ、当時の精神文化指導階級を責め鞭った心事が身に近く共感されるのを覚える。 今日の日本の現状は日蓮の時代と似たおもむきはないであろうか。 われわれは現在の政治的権力、経済的支・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・この有りあまって、だぶついている金で彼等は、労働貴族や、労働者の指導者を買収しようとする。これは実際存在することであり、資本家は、それらの裏切者を手なずけるために、間接、直接に、あらゆる手段を弄するのである。 彼等に買収された労働者は、・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・だが、三年兵のうちで、二人だけは、よう/\内地で初年兵の教育を了えて来たばかりである二年兵を指導するために残されねばならなかった。 軍医と上等看護長とが相談をした。彼等は、性悪で荒っぽくて使いにくい兵卒は、此際、帰してしまいたかった。そ・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・ひとつ御指導を得て、恋愛の稽古もはじめたい。歴史を勉強しましょうか。哲学とやらは如何。語学は。 告白すると、私は、ショパンの憂鬱な蒼白い顔に芸術の正体を感じていました。もっと、やけくそな言葉で言うと、「あこがれて」いました。お笑いになり・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・聞いてみると、これもやはりアメリカの人たちの指導のおかげか、戦前、戦時中のあの野暮ったさは幾分消えて、なんと、なかなか賑やかなもので、突如として教会の鐘のごときものが鳴り出したり、琴の音が響いて来たり、また間断無く外国古典名曲のレコード、ど・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ このような時代においてもしある科学の全般にわたって間口も広く奥行も深く該博深遠な知識をもった学者があって、それが学習者を指導し各部分の専門的研究者や応用家の相談相手になって行くとすれば実にこの上もない事である。しかしそのような権威は今・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ 実験や観測でなくて純粋な理論的の考察であっても、一つの指導的なイデーが頭に浮かぶのは時としては瞬間的であって、そうして、かろうじて意識の水平線の上に現われるか現われないかという場合がある。それをうっかりしていると取り逃がしてしまって、・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・「印刷工組合の指導者、青井三吉も、女にかかると、あかんな、うーん」 長野がコップをつきつけた。女房に子供もあるがチャップリンひげと、ながいあごをもっているこの男は、そんな意味でも女工たちに人気があった。三吉は焼酎をのみながら、事務的・・・ 徳永直 「白い道」
・・・の政論を掲げて一代の指導者たらんとしたのである。又狭斜の巷に在っては「池の端の御前」の名を以て迎えられていた。居士が茅町の邸は其後主人の木挽町合引橋に移居した後まで永く其の儘に残っていたので、わたくしも能く之を見おぼえている。家は軽快なる二・・・ 永井荷風 「上野」
出典:青空文庫