・・・うまい口上を並べて自分に投票させ、その揚句、議員である地位を利用して、自分が無茶な儲けをするばかりであることを、百姓達は、何十日となく繰返えして見せつけられて来た。 だから、投票してやるからには、いくらでも、金を取ってやらなければ損だ、・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・ そういう訳で銘々勝手な本を読みますから、先生は随分うるさいのですが、其の代り銘々が自家でもって十分苦しんで読んで、字が分らなければ字引を引き、意味が取れなければ再思三考するというように勉強した揚句に、いよいよ分らないというところだけを・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・さて月謝を沢山出した挙句に、いよいよ真物真筆を大金で買う。嬉しいに違いない、自慢をしてもよいに違いない。嬉しがる、自慢をする。その大金は喜悦税だ、高慢税だ。大金といったって、十円の蝦蟇口から一円出すのはその人に取って大金だが、千万円の弗箱か・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・この人が十年も他郷で流浪した揚句に、遠く自分の生れた家の方を指して、年をとってから帰って来たおげんの旦那だ。弟は養子の前にも旦那を連れて御辞儀に行き、おげんの前へも御辞儀に来た。その頃は伜はもうこの世に居なかった。到頭旦那も伜の死目に逢わず・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・何々食堂としたようなのが、雨降揚句の筍のように増えて来ています。しかし、そんな食堂とは食堂がちがいますよ――旦那も、先生も、これには大骨折りでした」「こんなところに、こんな好い食堂があるかって、皆さんがよくそう仰って下さいますよ」とお力・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・彼の両親は、長い間散々種々やって見た揚句、到頭、彼もいつかは一人前の男に成るだろうと云う希望を、すっかり棄てて仕舞いました。一体、のらくら者と云うものは、家の者からこそ嫌がられますけれども、他処の人々は、誰にでも大抵気に入られると云う得を持・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・ 『創作』という言葉を、誰が、いつごろ用いたのでしょう、など傍の者の、はらはらするような、それでいて至極もっともの、昨夜、寝てから、暗闇の中、じっと息をころして考えに考え抜いた揚句の果の質問らしく、誠実あふれ、いかにもして解き聞かせてもらい・・・ 太宰治 「喝采」
・・・だって、あの骨董屋の但馬さんが、父の会社へ画を売りに来て、れいのお喋りを、さんざんした揚句の果に、この画の作者は、いまにきっと、ものになります。どうです、お嬢さんを等と不謹慎な冗談を言い出して、父は、いい加減に聞き流し、とにかく画だけは買っ・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・ 唄合戦の揚句に激昂した恋敵の相手に刺された青年パーロの瀕死の臥床で「生命の息を吹込む」巫女の挙動も実に珍しい見物である。はじめには負傷者の床の上で一枚の獣皮を頭から被って俯伏しになっているが、やがてぶるぶると大きくふるえ出す、やがてむ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・それはちょうど俳諧連句の揚げ句のようなものだからである。 映画「大地」はドラマでもなく、エピックでもなく、またリュリックでもない。これに比較さるべき唯一の芸術形式は東洋日本の特産たる俳諧連句である。 はなはだ拙劣でしかも連句の格式を・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫