・・・しかもこの発見はデンマーク国の開発にとりては実に絶大なる発見でありました、これによってユトランドの荒地挽回の難問題は解釈されたのであります。これよりして各地に鬱蒼たる樅の林を見るにいたりました。一八六〇年においてはユトランドの山林はわずかに・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・これでよし、いまからでも名誉挽回が出来るかも知れぬ、と私は素直に喜んでいた。ところが、それからが、いけなかった。私の、それからの態度は、実に悪かったのである。全然、駄目であったのである。 私は、よくよく、駄目な男だ。少しも立派で無いので・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・故ニ温泉場ヲ開イテ以テ仲街ノ衰勢ヲ挽回セントスル也。建築ノ風一妓楼ノ如ク、楼ニ接シテ数箇ノ小茶店アリ。各酒肴ヲ弁ジ、且ツ絃妓ヲ蓄フ。亦花街ノ茶店ニ異ラズ。此楼モトヨリ浴ス可ク又酔フ可ク又能ク睡ル可シ。凡ソ人間ノ快楽ヤ浴酔睡ノ三字ニ如クハ無シ・・・ 永井荷風 「上野」
・・・しかのみならず論者が、今の世態の、一時、己が意に適せずして局部に不便利なるを発見し、その罪をひとり学校の教育に帰して喋々するは、はたしてその教育をもって世態を挽回するに足るべしと信ずるか。我が輩はその方略に感服する能わざるものなり。 そ・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・また人の口にし耳にするを好まざる所のものなれば、ややもすれば不知不識の際にその習俗を成しやすく、一世を過ぎ二世を経るのその間には、習俗遂にあたかもその時代の人の性となり、また挽回すべからざるに至るべし。往古、我が王朝の次第に衰勢に傾きたるも・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 和歌は万葉以来、新古今以来、一時代を経るごとに一段の堕落をなしたるもの、真淵出でわずかにこれを挽回したり。真淵歿せしは蕪村五十四歳の時、ほぼその時を同じゅうしたれば、和歌にして取るべくは蕪村はこれを取るに躊躇せざりしならん。されど蕪村・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・東京裁判という国際的なスポット・ライトに照らされた場面に人の目が集められているこの数年間に、その舞台のかげでさまざまの方法で旧勢力を挽回しようとつとめて、かなりの効果をあげている日本のかくれた軍国主義者の行動に対して、わたしたちは決してお人・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・軍人としてさえ恥を知らないジェスチュアによって東條の人気を挽回することで、その努力の一歩前進させることを期待したファシズム勢力があることこそ、わたしたちの警戒しなければならない最大の危険である。 きょうのファシズムは、決して数年前までの・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・無論この多数の外に立って、現今の頽勢を挽回しようとしている人はある。そう云う人は、倅の謂う、単に神を信仰しろ、福音を信仰しろと云う類である。又それに雷同している人はある。それは倅の謂う、真似をしている人である。これが頼みになろうか。更に反対・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫