・・・然しどちらの方向にどう歩まねばならぬかは、かすかながらにもお前達は私の足跡から探し出す事が出来るだろう。 小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはなら・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・しかし、そこを探し出すのだ。」と、年とったがんはいいました。 りこうな若いがんは、みんなを呼び集めて、その夜、月の下で協議を開くことにしました。するといろいろの説が出ました。「人間のみずから設けた禁猟区にいて、こちらの身の安全をはか・・・ 小川未明 「がん」
・・・どうして私の正体を捜し出す事が出来たのでしょう。そうです、本当に、私の名前は和子です。そうして教授の娘で、二十三歳です。あざやかに素破抜かれてしまいました。今月の『文学世界』の新作を拝見して、私は呆然としてしまいました。本当に、本当に、小説・・・ 太宰治 「恥」
・・・ 探偵小説と称するごときものもやはり実験文学の一種であるが、これが他のものと少しばかりちがう点は、何かしら一つの物を隠しておいて、それを捜し出すためにいろいろの実験を行なう、そうして読者を助手にしていろいろと実験を進めて行って最後に、そ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・たとえばキャサリン・ヘプバーン型の美人と醜婦を一人ずつ捜し出すのなどははなはだ容易であろう。 食堂の女給の制服は腕を露出したのが多い。必然の結果として食物を食卓に並べるとき露出された腕がわれわれの面前にさし出される。日本で女の子の腕を研・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・科学の目的は実に化け物を捜し出す事なのである。この世界がいかに多くの化け物によって満たされているかを教える事である。 昔の化け物は昔の人にはちゃんとした事実であったのである。一世紀以前の科学者に事実であった事がらが今では・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・だれとも知れぬ侵入者は驚くべき鋭敏な感覚で、宝捜しでもするような気で捜し出すと見えて、ほとんど残りなしに抜き取ってしまうのである。たとえば向日葵や松葉牡丹のまだ小さな時分、まいた当人でも見つけるのに骨の折れるような物影にかくれているのでさえ・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・彼は西を探し南を探しハンプステッドの北まで探してついに恰好の家を探し出す事が出来ず、最後にチェイン・ローへ来てこの家を見てもまだすぐに取きめるほどの勇気はなかったのである。四千万の愚物と天下を罵った彼も住家には閉口したと見えて、その愚物の中・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・おれならそう云う奴をどうにかして捜し出す。もしおめえの云うような値打の物なら、二人で生涯どんな楽な暮らしでも出来るのだ。どれ、もう一遍おれに見せねえ。」 爺いさんは目を光らせた。「なに、おれの宝石を切るのだと。そんな事が出来るものか。そ・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・もうここでおれは探し出すつもりだったんだ。なるほど、はじめてはっきりしたぞ。さあ探せ、恐竜の骨骼だ。恐竜の骨骼だ。」学士の影は黒く頁岩の上に落ち大股に歩いていたから踊っているように見えた。海はもの凄いほど青く空はそれ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫