・・・気になってくれて、その翌日弁当ごしらえをして、二人掛りで一日じゅう大阪じゅうを探し歩きましたが、何しろ秋山という名前と、もと拾い屋をしていたという知識だけが頼りですから、まるで雲を掴むような話、迷子を探すというわけには行きません。とうとう探・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・旧円の預け入れの時想いだしたんだが、どの本に入れて置いたのか忘れてしまったから、探すのはやめた。いちいち探してると、朝まで掛って、その間原稿は書けんからね」「しかし、奥さんにそう言って、探して貰えばよかったに」「原稿を書いてる傍で、・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・もし落し物なら影を背にしてこちらを向いて捜すはずだ 天心をややに外れた月が私の歩いて行く砂の上にも一尺ほどの影を作っていました。私はきっとなにかだとは思いましたが、やはり人影の方へ歩いてゆきました。そして二三間手前で、思い切って、「・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・家を捜した。こんなことも、気質の明るい彼には心の鬱したこの頃でも割合平気なのであった。家を捜すのにほっとすると、実験装置の器具を注文に本郷へ出、大槻の下宿へ寄った。中学校も高等学校も大学も一緒だったが、その友人は文科にいた。携わっている方面・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・「夜更けて何者をか捜す」「紀州を見たまわざりしか」「紀州に何の用ありてか」「今夜はあまりに寒ければ家に伴わんと思いはべり」「されど彼の寝床は犬も知らざるべし、みずから風ひかぬがよし」 情ある巡査は行きさりぬ。 源・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・ そこで私はまず城山を捜すがよかろうと、田口の僕を一人連れて、ちょうちんの用意をして、心に怪しい痛ましいおもいをいだきながら、いつもの慣れた小道を登って城あとに達しました。 俗に虫が知らすというような心持ちで天主台の下に来て、「・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・ 下宿を捜すにも実際にかような仕方で、要求の条件に適するものを、数多くの中から選んだわけである。 同一人にとっても、問いの所在ならびに解決方途の異なるにしたがって、かような指導書もまた推移していく。私にとってはそれはカルル・ヒルティ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・「道を探すだけでなしに、パルチザンがいやしないか、家があるか、鉄道が見えるか、よく気をつけてやるんだぞ。」「はい。」 斥候は、やがて、丘を登って、それから向うの谷かげに消えてしまった。そこには武石と、道案内のスメターニンとが彼を待っ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・それで趣味が高じて来るというと、良いのを探すのに浮身をやつすのも自然の勢です。 二人はだんだんと竿に見入っている中に、あの老人が死んでも放さずにいた心持が次第に分って来ました。 「どうもこんな竹は此処らに見かけねえですから、よその国・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・この度の出京はそれとなく職業を捜す為でもある。不安の念は絶えず原の胸にあった。「では失礼します。君も御多忙でしょうから」原は帽子を執って起立った。「いずれ――明日――」「まあ、いいじゃないか」と相川は眉を揚げて、自分で自分の銷沈した・・・ 島崎藤村 「並木」
出典:青空文庫