・・・夜のあけあけに大捜索が行われた。娘は河添の窪地の林の中に失神して倒れていた。正気づいてから聞きただすと、大きな男が無理やりに娘をそこに連れて行って残虐を極めた辱かしめかたをしたのだと判った。笠井は広岡の名をいってしたり顔に小首を傾けた。事務・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・一刹那の間、一種の、何物をか期待し、何物をか捜索するような目なざしをして、名誉職共の顔を見渡した。そしてフレンチは、その目が自分の目と出逢った時に、この男の小さい目の中に、ある特殊の物が電光の如くに耀いたのを認めたように思った。そしてフレン・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・ 昨日行方不明になった、三人のものの家族や、たくさんの群集が、五つの赤いそりが、捜索に出かけるのを見送りました。「うまく探してきてくれ。」と、見送る人々がいいました。「北のはしの、はしまで探してくる。」と、五人の男たちは叫びまし・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・とするや、杉野兵曹長は爆発薬を点火するため船艙におりし時、敵の魚形水雷命中したるをもって、ついに戦死せるもののごとく、広瀬中佐は乗員をボートに乗り移らしめ、杉野兵曹長の見当たらざるため自ら三たび船内を捜索したるも、船体漸次に沈没、海水甲板に・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・彼は、日本人のために理由なしに家宅捜索をせられたことがあった。また、金は払うと云いつつ、当然のように、仔をはらんでいる豚を徴発して行かれたことがあった。畑は荒された。いつ自分達の傍で戦争をして、流れだまがとんで来るかしれなかった。彼は用事も・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・武器の捜索を命じられているのだった。「こいつ鉄砲をかくしとるだろう。」「剣を出せ!」「あなぐらを見せろ!」「畜生! これゃ、また、早く逃げておく方がいいかもしれんて。」近づいて来る叫声を耳にしながら、ウォルコフは考えた。・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 兵士達は、始終過激派を追っかけ、家宅捜索をしたり、武器を押収したり、夜半に叩き起され、やにわに武装を整えて応援に出かけたりしなければならなかった。鉄道沿線へは多くに分れて小部隊が警戒に出かけた。栗本の中隊は、汽車に乗ってイイシの警戒に・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・の山崎のお母さんでさえ、引張られて行く自分の息子よりも、こんな日の朝まだ夜も明けないうちに、職務とは云え、やって来て、家宅捜索をするのに、すぐ指先がかじかんで、一寸やっては顎の下に入れて暖めているのを見るに見兼ねて、「え糞ッ!」という気にな・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・ 月島丸が沈没して、その捜索が問題となった時に、中村先生がいろいろの考案をされて、当時学生であったわれわれがお手伝いをして予備実験をやった。なんでも大きなラッパのようなものをこしらえて、それをあの池の水中に沈め、別の所へ、小さなボイラー・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・その世界の中でそれに相当するつながりを索めることになります。その捜索の経路の中に数限りもない過去の夢のような影像が眼前を通過するのであります。 それについて私の平生の疑問は、これらの連作をされる方々が、どういう方法で一聯の連作を纏めてお・・・ 寺田寅彦 「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」
出典:青空文庫