・・・それで、もし、この謙信居城の地の地すべりに関する史料を捜索して何か獲物でも見つかれば少しは話が物になるが、今のところではただの空想に過ぎない。しかしこの話がともかくもそういう学問上の問題の導火線となりうる事だけは事実である。・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・田崎と車夫喜助が鋤鍬で、雪をかき除けて見ると、去年中あれほど捜索しても分らなかった狐の穴は、冬も茂る熊笹の蔭にありあり見えすいて居る。いよいよ狐退治の評議が開かれる。 喜助は、唐辛でえぶせば、奴さん、我慢が出来ずにこんこん云いながら出て・・・ 永井荷風 「狐」
・・・昨日は三度ならず四度までも留守宅へ御来臨の上下婢に向って妾ら身の上に関する種々なる質問を発せられ、それのみならず無断にて人の家を捜索なされ、あまつさえ下婢に向って妾はレデーの資格なきものなりなど余計な事を吹聴せられ候由、元来右はいかなる御主・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・テーモ氏から捜索願が出ているのだ。いま君がありかを云えば内分で済むのだ。でなけぁ、きみの為にならんぜ。」「どうも全く知らないのです。まあ、あなたがたもご商売でしょうが、わたくしの声や顔付きをよくごらんください。これでおわかりにならんので・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・この指令もおそらくどこかの家宅捜索をすれば、「そこにもあった」ものとして発表されるでしょう。昔からこの手は使われていることです。 ファシストの地下組織が千葉で発覚しています。千葉のファシスト地下組織は、もと上海特務機関中尉である大島軍司・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 夜具風呂敷の地を買って、いつ引越しでも出来るように、縫わせたり、荷物自動車を調べて見たり、相変らず、私の捜索材料は、唯一つ、毎朝の時事がある許りであった。 処が、思いがけない或休日、自分は時事で、実によさそうな広告を見つけた。・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・ 停車した追分駅では、消防夫が、抜刀で、列車の下を捜索した。暫く見廻って、「いない。いない」と云う声が列車の内外でした。それで気が緩もうとすると、前方で、突然、「いた! いた!」とけたたましい叫びが起った。次いで、ワーッ・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・ 一行が二日以上泊るのは、稀に一日の草臥休をすることもあるが、大抵何か手掛りがありそうに思われるので、特別捜索をするのである。松坂では殿町に目代岩橋某と云うものがいて、九郎右衛門等の言うことを親切に聞き取って、綿密な調べをしてくれた・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ この書の成るに当たって、永い間本を借してくだすった井上先生、大塚先生、小山内薫氏、本を送ってくだすった原太三郎氏、及び本の捜索に力を借してくだすった阿部次郎氏、岩波茂雄氏に厚くお礼を申し上げる。 大正四年八月鵠沼にて・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫