・・・出来上ったのを見てお徳は「これが木戸だろうか、掛金は何処に在るの。こんな木戸なんか有るも無いも同じことだ」と大声で言った。植木屋の女房のお源は、これを聞きつけ「それで沢山だ、どうせ私共の力で大工さんの作るような立派な木戸が出来るもの・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ 寝室の窓から、彼が来たことを見ていた三十すぎのユーブカをつけた女は戸口へ廻って内から掛金をはずした。「急ぐんだ、爺さんはいないか。」「おはいり。」 女は、居るというしるしに、うなずいて見せて、自分の身を脇の箱を置いてある方・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・どうぞこの祈りが、いつか、不思議な、先生の運命の扉の掛金に迄届くように。(附記。私は猶、胸にのこる多くの感じを持っている。先生の人としての生活を考えるとき、言葉は此処でつきない。けれども、現在、学校に勤められ、複雑な事情の許に置・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
出典:青空文庫