・・・と降参人と見てとっていやに軽蔑した文句を並べる、不肖なりといえども軽少ながら鼻下に髯を蓄えたる男子に女の自転車で稽古をしろとは情ない、まあ落ちても善いから当り前の奴でやってみようと抗議を申し込む、もし採用されなかったら丈夫玉砕瓦全を恥ずとか・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・――それで、もしその時にその米国帰りの人が採用されずに、この私がまぐれ当りに学習院の教師になって、しかも今日まで永続していたなら、こうした鄭重なお招きを受けて、高い所からあなたがたにお話をする機会もついに来なかったかも知れますまい。それをこ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・に文壇の秀才多きは我国史の示す所にして、西洋諸国に於ては特に其教育を重んじ、女子にして物理文学経済学等の専門を修めて自から大家の名を成すのみならず、女子の特得は思想の綿密なるに在りとて、官府の会計吏に採用せらるゝ者あり。又学者の説に、医学医・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ かりにその上書建白をして御採用の栄を得せしめ、今一歩を進めて本人も御抜擢の命を拝することあらん。而してその素志果して行われたるか、案に相違の失望なるべし。人事の失望は十に八、九、弟は兄の勝手に外出するを羨み、兄は親爺の勝手に物を買うを・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・その仲間の中にも往々才力に富み品行賤しからざる者なきに非ざれども、かかる人物は、必ず会計書記等の俗役に採用せらるるが故に、一身の利害に忙わしくして、同類一般の事を顧るに遑あらず。非役の輩は固より智力もなく、かつ生計の内職に役せられて、衣食以・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・たとえば我が日本にて古来、足利の末葉、戦国の世にいたるまで、文字の教育はまったく仏者の司どるところなりしが、徳川政府の初にあたりて主として林道春を採用して始めて儒を重んずるの例を示し、これより儒者の道も次第に盛にして、碩学大儒続々輩出したり・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・数年前デパートの女店員は家庭を助けたが、今は家庭が中流で両親そろい月給で生計を助ける必要のないものというのが採用試験の条件である。「大人」に憂いが深いばかりか大人になりつつある若い男女の心も、訴えに満ちている。世の中は何故こうなったのだろう・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・これはカールの字体が分りにくいために採用されなかった。 一八五九年。アメリカを中心としてヨーロッパ中を襲った大恐慌は、マルクス一家の窮乏をますますひどくした。けれどもカールは「万難を排して目的を遂げなければならない。そして僕を金儲け機械・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・「一度可決採用された計画の実行の問題に関しこの自己批判となると、大入満員の観がある」と。何故に、誰のために改善されなければならず、計画の実行の問題が重要なのであろうか。 ジイドによれば、人工的に過度に生産その他を強化する必要からであ・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・ 和久井門平 小市民の下級知識労働者が、市の職業紹介所へ行って、かかりの者の官僚主義や、得たいのしれぬ情実採用に痛めつけられ憤る心持を、この作者は細々と書いている。憤りを押えて下手に出る求職者の心もちなどこくめいに書かれているが、作品・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
出典:青空文庫