・・・ やれやれ生命を拾いたりと、真蒼になりて遁帰れば、冷たくなれる納台にまだ二三人居残りたるが、老媼の姿を見るよりも、「探検し来りしよな、蝦蟇法師の住居は何処。」と右左より争い問われて、答うる声も震えながら、「何がなし一件じゃ、これなりこれ・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・ 昔、読んだスタンレーの探検記には、アフリカの蛮地で兇猛なあり群に襲われることが書いてあった。たしかに、猛獣に襲われるより怖しいことだったにちがいない。この、少しの反抗力をも有しない彼等に対してすら、その執拗と根気に怖れをなしているので・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ケーはこうして、この町の中を探検していますうちに、いつともなしに体が疲れてきました。「ははあ、なんだか疲れて、眠くなってきたぞ。ここで眠っちゃならない。我慢をしていなくちゃならない。」と、ケーは独り言をして、自分で気を励ましました。・・・ 小川未明 「眠い町」
・・・「いつであったか、探検隊が登って、そのうちで落ちて死んだものがあったろう。それからだれも登ったものがないだろう。」と甲がいいました。「だけれど、その家来はいっしょうけんめいになって、登ったんだって、おじいさんがいったよ。」と・・・ 小川未明 「不死の薬」
一 パーロの嫁取り 北極探検家として有名なクヌート・ラスムッセンが自ら脚色監督したもので、グリーンランドにおけるエスキモーの生活の実写に重きをおいたものらしいので、そうした点で興味の深い映画である。グリー・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
一「バード南極探険」は近ごろ見た映画の内でおもしろいものの一つであった。これまでにも他の探険隊のとった写真やその記事などをいろいろ見てかなりまでは極地の風物の概念を得たつもりでいたのだが、しかし活動映画・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうした処女地を探険するのが今の映画製作者のねらいどころであり、いわば懸賞の対象でなければならない。それでたとえばアメリカ映画における前述のレヴューの線条的あるいは花模様的な取り扱い方なども、そうした懸賞問題への一つの答案として見ることもで・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 飛行船が北氷洋上で氷原をとった写真を現像したら思いもかけぬ飛行機の氷の上に横たわる姿が現われたので、これはきっと先年行くえ不明になった有名な老探検家の最後を物語るものだろうという事になったが、よくよく調べてみると、これは写真技師がうっ・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
一 白熊の死 探険船シビリアコフ号の北氷洋航海中に撮影されたエピソード映画の中に、一頭の白熊を射殺し、その子を生け捕る光景が記録されている。 果てもない氷海を張りつめた流氷のモザイクの一片に乗っかって親・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・それから四十年後の近ごろになって新聞で潜航艇ノーチラスの北極探検に関する記事を読み、パラマウント発声映画ニュースでその出発の光景を見ることになったわけである。この「海底旅行」や「空中旅行」「金星旅行」のようなものが自分の少年時代における科学・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
出典:青空文庫